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どこにでもないちいさなおはなし
【ファンタジー 恋愛小説】

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どこにでもないちいさなおはなし-42

「二人と合流するまでここにいよう」

露が残る緑の草の上にそっとティアンを降ろすとその隣にリールを壊れ物のようにそっと置き、自分のマントを外してリールを包みました。

「ジャック……」

ティアンはジャックの動作をじっと見ながら呟きました。ジャックはリールの額を何度か撫でた後ティアンを見ました。ティアンは丸い黒い瞳でじっと見ながらもう一度しゃがれた声で呟きました。

「ねぇ、ジャック。どうして僕は戻らないんだろうね。……リールが思い出した時に、僕も全てをきちんと一から十まで思い出したんだよ。なのに、どうして、僕はこんな姿のまんまなんだろう」

自分の緑色の手のひらをじっと見つめながらティアンは言いました。ジャックはそっとティアンの横に座り、腰に付けている皮袋からミントの枝を出して二つに折り、片方をティアンに渡しました。

「それは見守る者に聞いているのですか?それとも、ジャック個人への質問ですか?」

ティアンは枝を受け取りながら首を振った。

「分からない。でも、僕はね、確かにあの時ネーリア様に会ったんだ。夢の中だったような気がするけど、魔法を掛けられた。どうしても僕の姿を変えなくてはならないって言われて。でも、この姿のままじゃネーサに言えないよ。君の伴侶のオギアスだなんて」

「……どうしてかを教えてくれと命令されればそれに背く事は私たちには出来ませんよ、オギアス」

ジャックががりっと枝を噛むと辺りに薄荷の匂いが漂いました。ティアンは何も言えずに同じように枝を噛み締めました。知りたいのはやまやまでしたがそれを知ってはいけないような気がしていました。
二人は枝がボロボロになりまで何も言わずにただ黙って噛んでいました。

「ねぇ、リールの前では僕はまだ何も言わないから、だから、ジャックもただのかえるだと思って接してくれる?」

ようやくティアンが口を開き、そう言いました。それがティアンの答えでした。ジャックは大きく頷きました。木々の間から見える太陽がずいぶんと下に来ていました。

「そろそろ時間だな」

枝をそこらへ放り投げるとジャックが立ち上がりそっとリールの身体を揺らしました。

「リール、起きなさい。そろそろ二人が来るよ」

リールの小さな瞳に掛かる長い睫が揺れました。そっと目を開けるとジャックの首に腕を伸ばして抱きつきました。

「夢の中でお母様に会ったわ。ジャック、私、怖い」

ティアンは自分が慰めて上げたいと思っていました。けれどそれはしてはいけないような気がしていました。今はまだその時期では無いと思っていました。


それからすぐにマイラとマイティが合流しました。二人は手に大きな袋を二つずつ持っていてマイティの袋からはパンがはみ出ていました。

「お待たせ。悪かったね、思ったより手間取っちまって」

マイラは小汚いローブを頭からすっぽりと被り木で出来た古めかしい杖を持っていました。マイティも耳を縛って帽子の中に入れて顔にはほっかむりをしていました。


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