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春の陽だまり
【初恋 恋愛小説】

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春の陽だまり-5

「佐野さんて、俺のこと好き?」
「……」

智美は俯いた頭をさらに下げ首肯してみせた。
もう、どんな言い訳もできないと思った。

避けられるぐらいなら、ただの後輩でよかった。
だけど、このまま会えなくなってしまうなら、あたってくだけろ、だ。
どうせ、もう会うことはない。
そう思って家を出た筈なのに、なにも言えず頷くのが精一杯だった。

「そう」

遥がコーヒーを飲む。
はあ。と息をついて、それからパンを自分の膝を叩いた。

「うん。じゃあ、ちょっと付き合ってみますか?」
「え?」

智美にはどういう意味かよく分からなかった。
ため息つかれた後の回答。
彼の思ってることがわからない。

「なんていうかな、俺、全然、佐野さんのこと考えてなかったんだよ。その、好きとか嫌いとか。けど、今ね。ちょっと可愛いなとか思ってて。それもいいかなと」

遥は正直なところをそのままに話した。

好きだと頷かれて、軽く混乱していたというのもある。
大学の受験より緊張する。と遥は思った。
けれど、困惑すると言うモノではなかった。

それは、もう既に彼女の気持ちに応えてもいいと思ったからだ。

「それは…お友達から、って……ことでいいんですか?」
「あ、ああ、そうね。うん」

顔を上げた智美は返事を聞いたとたんに目を細めてポロリと涙をこぼした。

「よかった」

智美は笑って目尻をぬぐった。

あ、やっぱり可愛いかも。
はじまりなんてこんなものかもしれない。
と、遥はぼんやり思った。





コーヒーを飲んだあと、少し歩いた。
智美が押している自転車がカラカラと音をたてている。

「先輩って、高校生活で好きな女の子っていなかったんですか?」
「まあ、その場その場でそれなりにね。あんまり思い詰めたことはなかったな。付き合ってくれるコがいるとも思わなかったし」

遥は両腕を上げてノビをする。
こういうことを女の子に話すのはなんだか気恥ずかしかった。
後ろ暗い妄想はしょっちゅうだった。
だが、それは彼女のいう"好き"とは別だと思われる。

クラスメートでも後輩でも、いいなあ、と思うことは結構あった。
でも、それで付き合って欲しいと考えたことはない。勿論、付き合いたくないわけではなく、本当に考えたことがなかっただけだった。

「え?先輩、結構モテてたのに。1年の女子の間では北野先輩と大石先輩に人気が割れてましたよ」
「そうなの?じゃあ惜しい事をしたなあ。……大石ねえ。なるほど、アイツは面倒見がいいからな。ガキ大将タイプ」
「ぷ。そう言われるとそうですね」

智美の笑顔がこぼれた。
遥の変わらない態度に安心したのだ。


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