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春の陽だまり
【初恋 恋愛小説】

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春の陽だまり-4

「もういいかな」

遥は火を退きランプにフタをする。

琥珀の液体がフラスコに下りてくる。

「上等上等。せっかくだしなー」

とかいいながらカップ&ソーサーにスプーンを用意した。

遥がテーブルの上の缶を引き寄せる。缶を開けて小皿に滑らせたのはクッキー。

ロートをとりシンクに置くとフラスコのコーヒーをカップに注ぐ。

「どうぞ」
「きゃー、すてきーカフェみたいー」

智美はコンデジでカップとクッキーを並べて写真を撮っている。
はしゃぐ彼女を見ながら遥はフラスコに残ったコーヒーを自分のマグに入れた。

「なんとかなるもんだなー。俺、メンドクサイからコレ使ったことないんだよね」

遥がサイフォンのガラスをピンと指先で弾く。

「え?」
「大抵はコッチ」

そういいながら持ち上げたのはインスタントコーヒーの瓶。

「ええ?はじめて淹れたんですか?すごーい」
「たまーにレギュラーは淹れるよ?紙ドリップだけど。ま、サイフォンも淹れてるとこは見てるから、見よう見まね?」
「おいしー。良いにおいー。あったまるー」

ニコニコとしあわせそうな顔をしてコーヒーを飲む智美にドキリとする。

偶然、あんなところで居合わせるなんてことあるんだろうか?
それに、なぜ自分はここへ智美をつれてきたんだろう?
会いました。偶然ですね。そんじゃ、さよなら。またね。
そんな展開の方が普通なんじゃないだろうか。
と、遥は今更ながら思った。

「なんで、こんなとこまで来てたの?」
「え」

遥は思ったままの疑問を口にしてみた。

笑っていた智美の顔がかたまる。

友達の家がこの近くにあって。
親戚の家が。
この先の店に買い物に。
かかりつけの病院が。

智美にはいろいろ考えた口実があったが、なにひとつでてこなかった。頭の中が真っ白とはこのことだと思った。
あっという間に顔が赤くなっていく。

「それはー」
「それは?」

遥に問いかけられ、智美はだまってしまった。

しばらくの沈黙の後、遥が口を開いた。

「……さほど察しが悪いってわけじゃないけどね、かといって自信過剰にもなれないからアレなんだけど……」

なんだが他人事のようにつぶやく。
智美はもう俯いたまま顔を上げることができなかった。

一方、遥も言い切ることに躊躇していた。
違っているならかなりマヌケだ。
客観的にこの状況から判断する結論は、主観的に自分のことを考えればありえない。

言い出してしまったし、もうごまかせないから、遥は思いきって続けた。


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