投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

異界幻想の最初へ 異界幻想 5 異界幻想 7 異界幻想の最後へ

異界幻想ゼヴ・セトロノシュ-6

「よぅし……行くぞ、レグ!」
 深花が逆らわない事を確信した男は、声を張り上げた。
「地の力は十分……それに、ミルカもいる。全力を出せ、レグヅィオルシュ!」
 その声を聞いた鎧が、軋みを上げる。
「な……何!?」
 慌てふためく深花の声に、男は注意を向けた。
「何だ、何も見えてないのか。レグ、ミルカと神経接続を」
 言われた途端、尾てい骨の辺りから脳天に向かって違和感が走り抜ける。
「え?」
 いきなり、目の前が開けた。
 暗闇に塗り潰されていた視界が急にクリアになり、鎧の内部が見渡せるようになる。
 内部はやはり、生々しい肉の塊だった。
 自分と男の周囲は透明化しているので、見るのに支障はない。
 支障はないが……何とも言えない違和感を覚え、深花は視線を自分の体に落とす。
「きゃーーーーーーっ!!?」
 その途端、深花は悲鳴を上げる羽目に陥った。
 体が、溶けている。
 服はどこかに消し飛び、体の前面は男と密着していた。
 その接着面全てが、男の体と溶け合っている。
 足に至っては鎧内部の筋肉と接着され、全く身動きが取れないようにされているのだ。
「うるせえ!痛くはないだろが!」
 その一言で深花を黙らせると、男は息を吐く。
 深花はかろうじて自由になる顔を、男へ向けた。
 眉間には、集中を表す皺が刻まれている。
 男の着ていた服は深花と同じくどこかに消し飛び、露になった背面は内部筋肉と癒着していた。
 それだけ見てとった深花の視界が、ふっと切り替わる。
 切り替わった視界は、外を見ていた。
 自分が騒いでいる間にも、男と紅い鎧は黒い鎧と切り結んでいたようである。
 今はこっちが優勢なようで、黒い鎧はぼろぼろだった。
 男がフン、と鼻を鳴らす。
「ミルカを得た神機に、下位機が勝てると思うか?」
 紅い鎧が無造作に腕を振るい、黒い鎧の腕を肩口から切り飛ばした。
 にゅるりっ、と即座に断面から新しい腕が生えてくるが……力尽きかけているのか、肘よりも短い位置で再生が止まる。
「よーしよーし……」
 それを見て、男は不敵に笑った。
「おい、お前!」
 そしてやおら、黒い鎧に呼び掛ける。
「降参しろ!今なら、命は助けてやる!」
 降参を呼び掛けておきながら、紅い鎧の腕は得物……肉厚の刃がついた剣を、黒い鎧の首筋へあてがった。
 こんな状態では正直に言って、選択の余地は狭い。
 黒い鎧のフェイスガードから、軋みが漏れる。
 不思議な事に、深花はその軋みを音声として認識できた。
『仕方がない……投降しよう』
「よぅし」
 それを聞いた男は、ニヤリと笑う。
『何故だ?』
 納得しかねる様子で、黒い鎧は呟いた。
『先程までのお前は、世辞にも強いとは言えなかった。それがここへ来た途端、比較にならぬ強さを発揮している。一体、何がお前をここまで変化させた?』
 唇をすぼめて半瞬考え込んだ後、男は答える。
「さてね。それより……」
 ぐい、と紅い鎧の腕に力が入った。
「ここへの門を開けたお前だ。当然、帰り道も出せるんだろうな?」
『無論だ』
「結構。じゃあ、出してもらおうか。お前が死にかけだから門を開けられないなんてのは、理由にならねえぞ」
 ここまで全く蚊帳の外だった深花だが、何だか怪しい雲行きに気づく。
「ちょ……っ!?」
 口を開きかけた瞬間、それが背筋を走り抜けた。
 体の中から何かが吸い出される代わりに、神経が奇妙な感覚で満たされる。
「うぅ……!」
 全身が、かっと熱くなった。
 今まで体験した事のない感覚にまごついているうちに、事態は深花にとって取り返しのつかない方向へ進む。


異界幻想の最初へ 異界幻想 5 異界幻想 7 異界幻想の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前