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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・セトロノシュ-3

「こンの馬鹿っ!」
 少年は罵り声を上げたが、鎧は止まらない。
 邪悪な鎧に背後から組み付くと、二機はもつれ合いながら地面に転がった。
 二転三転しながら、二機は互いの機体を殴り合う。
「マイレンクォード!」
 悲鳴に近い声で、美女が叫んだ。
 それを聞いた蒼い鎧は、周囲に甚大な被害を撒き散らしながら転がる二機に向かって叫び声を上げる。
 一瞬、二機の動きが止まった。
 その隙を逃さず、蒼い鎧は動く。
 邪悪な鎧に向かって間合いを詰めると、思い切りよく剣を振るった。
 分厚いブレードが、邪悪な鎧の頭部を叩き斬る。
 その一瞬、断面が見えた。
 人間のそれとなんら変わらぬ、健康的な桃色の筋肉が詰まっている。
 断面からはすぐに血が噴き出し、周囲を赤く染めた。
「レグヅィオルシュ!」
 叱責するような心配するような声を上げながら、少年は返り血に染まった機体の元へ駆け寄る。
 敵対しているそれの息の根が止まった事を、確認しないまま。
「あ、こらっ!」
 青年が慌てた声を出すが、少年は止まらない。
「お前なぁっ……!」
 少年が説教を垂れようとした、その時。
 邪悪な鎧が、動いた。
 真紅の鎧に説教しようとしていた少年の体に、邪悪な鎧の指が巻き付く。
 それと同時に叩き斬られていた頭部が蠢き、一瞬にして再生を果たした。
 鎧はさすがに復元しないので頭部が剥き出しの姿ではあるが、驚くべき再生スピードである。
「んなっ……!」
 驚愕する少年を尻目に、邪悪な鎧は叫び声を上げた。
 その瞬間、戦慄が三人の背を走り抜ける。
 何とも言えない嫌な感覚が、周囲を包み込んだのだ。
 ギギィ……と音を立てて、空間が軋む。
 軋み歪んだ空間の向こうに、黒い穴が見えた。
「ジュリアス!!」
 それを見た青年は、焦った声で叫ぶ。
「んがっ、このっ……離しやがれっ!」
 少年はもがくが、それは赤子が大人に抗うよりも弱い抵抗でしかなく、邪悪な鎧は淡々と作業を進めた。
 崩れていた体勢を立て直し、黒い穴へと顔を向ける。
「やだ、ちょっと……マイレンクォード、どうにかならないの!?」
 美女からそう叫ばれた蒼い鎧は、否定の意を見せた。
 邪悪な鎧と黒い穴との間には奇妙な力場が発生しており、巻き込まれたらどうなるか分かったものではない。
 そして、パートナーでありながら意思の疎通がお粗末な紅い鎧には、少年を助け出す事など不可能である。
 事実、紅い鎧は主人の危機にも拘わらずただ手をこまねいているだけだ。
「……戻れ、カイタティルマート」
 蒼い機体の回答を見た青年は悔しそうに目を伏せると、自分の機体を回収する。
 役に立たないのなら、出しておく理由はない。
「こんにゃろっ……離せえええええっ!」
 邪悪な鎧は立ち上がり、地を蹴った。
 そして、黒い穴へと飛び込む。
「畜生っ……来い!レグヅィオルシュ!」
 穴と接触する直前、少年は自分の機体を呼んだ。
「ティトー!」
 それから、青年を見据えて叫ぶ。
「必ず戻ってくる!だからレグは持ってくぞ!」
 青年は、はっとして少年を見た。
 そこにあるのは、確固たる意志。
「っ……必ず戻って来い!待ってるぞ!」
 青年の叫びに、少年は頷く。
「ジュリアス!」
 美女の叫びも空しく、邪悪な鎧は穴の中へと消えていった。
「そんな……嘘でしょ……」
 残された二人は、ただ虚空を見つめる。
 しかし、飛び立った機体が戻ってくるはずもなかった……。



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