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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・セトロノシュ-16

「ペンダントの持ち逃げは天敵と交渉した末の条件だったと考えれば、そうおかしい事とは思えません」
「なるほどな……!」
 一杯食わされたとばかりに、ティトーが舌打ちする。
「奴らにとって、ミルカを殺すのはたやすかったはず。だがそうしなかった。何故なら……」
「殺したなら新しいミルカが立つだけ。けれど追放ならば、長期間に渡って確実にこちらの戦力が削げる」
 フラウが喉の奥で唸った。
「利害が一致しているから、あっちも聞く耳を持ったんでしょうね……」
 深花は、諦めたような微笑みを浮かべた。
「そして……私は帰るに帰れなくなりましたから、こちらへ留まるよう説得する必要はないですよ」
「え?」
 言われたティトーが、眉をひそめる。
「その人が、敵側の空間を渡れる神機を私の目の前でこんがり焼き上げましたからね。人間が空間を渡る方法は残して貰えなかったようですし……あっちじゃ、その人のおかげで自分の身にあらぬ嫌疑がかけられている事もありますし」
 二人は、呆れた顔でジュリアスを見た。
「お前、何やらかしたんだよ……」
「何もしてねえっ!」
 息巻くジュリアスに、深花は冷たい目を向けた。
「自覚がないの?」
 自分に対してあからさまに態度を変えた深花の姿勢に、ジュリアスは苛立った表情を見せた。
「おい!お前なあ……!」
「私は、望んでここにいる訳じゃないっ!!!」
 深花の声は、ジュリアスの文句を圧倒する。
「私は地球で、平和に暮らしてた!それをあなたが全部破壊した、帰れなくした!!人の日常を壊しておきながら、自覚がないですって!?何様のつもりよっっ!!」
 必死に繕っていた心の綻びが、叫んだ事で壊れてしまったのだろう。
 両手に顔を伏せて嗚咽を漏らす深花の肩をフラウが抱き、背中をさすり始めた。
「あ〜あ〜あ〜……だーかーらお前は黙っとけって忠告したろ」
 頬を紅潮させているジュリアスを一瞥した後、ティトーも慰めに加わる。
 泣く深花を宥めすかしている二人を見て、ジュリアスは聞こえよがしに舌打ちした。
「んなに大変な事かよっ……!」
「いいからお前は黙ってろ」
 ティトーが、冷たい声で釘を刺す。
「この子の心情を思いやれない馬鹿発言を繰り返すだけなら特にな」
 二人は鋭い視線を交わし合い……やがてジュリアスが、視線を逸らした。
 自分は正しい事をしたと胸を張るジュリアスにとって、泣いている深花はもとよりそれを慰めるティトーとフラウは理解の範囲外である。
「こっちにはこっちの。彼女には彼女の事情がある。正しい事が善い事とは限らないって事だよ、お坊っちゃん」
 嫌みで杭を刺し、ティトーは深花を慰めに戻った。
 しばらく泣いていた深花だが、やがて顔を上げる。
「……ご心配をおかけしました。もう、大丈夫です」
 真っ赤に泣き腫らした目が、見るからに痛々しい。
「……色々あって疲れたろうから、今日はこのくらいにしよう。とりあえず、ベッドはここで。お腹は空いてるかい?」
「あ……少し」
 考えてみれば巻き込まれたのは夕方で、いろいろあってご飯なぞ食べていないからかなりお腹が空いている。
 それを聞いたフラウが、立ち上がった。
「あなたが外に出ると、騒ぎになりそうね。デリバリーは任せて」
「はい」
「そんでジュリアス。おめーは朝まで説教コースだ」
「んなっ……!」
 ティトーは、ジュリアスを引きずるようにして出ていく。
 一人になった深花は、そっと嗚咽を漏らすのだった……。



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