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恋愛小説
【純愛 恋愛小説】

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恋愛小説(5)-9

「ほらやっぱりひーちゃんに良く似合ってる」
「本当だ。僕じゃないみたいだね」
「ひーちゃんはひーちゃんだよ」
「ん?」
「ひーちゃんって、実はかなりカッコいいんだよ?」
「そうなの?」
「うん。当社比で三割増しぐらい」
「それは信憑性の高いデータだね」
「あ、嘘だと思ってるでしょ?」
「かもしれない」
「でた。ひーちゃんの『かもしれない』!」
葵ちゃんは楽しそうだった。良く話して、良く冗談を言って、そして良く笑った。普段大学内ではあまり見る事のない表情だった。

村田さんの誕生パーティーにも千明は現れなかった。木村さんはサークルのほとんどのメンバーに声をかけたと言っていたから、欠席したのだろうと僕は考えた。でもそれはとても珍しいことだった。千明はこういったイベントごとが好きだったし、木村田の行く末を心配していると僕は思っていたからだ。そういば学園祭からこっち、千明に合ったのは数える程しか無い。一体千明はどこで何をしているのだろう。
「ひーちゃん!」
「うわっ!冷た!」
急に背中に冷たい感触が触れて、僕は考えるのを止めた。背筋がぞくっとして、驚いて大きな声をだしてしまう。背中に手を伸ばしてみると、冷たい何かが僕の服の中にあるのがわかる。ひっそりと濡れているそれが氷だと気付くのに、僕はそう時間を要しなかった。
「なんてことするのさ!」
「ふふっ、だってひーちゃんなんか一人で考えてるんだもん。先輩のこと考えてたんでしょ?」
葵ちゃんは、酔っているようだった。いつか見た時みたいに、頬を赤めて足取りが怪しい。
「酔ってるの?」
「酔ってない酔ってない」
「酔ってる人は大概みんなそう言うものだけどね」
「ホントーに酔ってません!こんなの、飲んだ内に入りません!」
グラスに入ったお酒をあけながら、葵ちゃんは舌たらずな口調でそう言った。目がトロンとしていて、涙眼になっている。そうとう飲んだのかもしれない。
「ご機嫌だね?」
「あー、わかります?」
「なにかいい事でもあったの?」
「ふふー。教えなーい」
「なら聞いてあげない」
「えぇー?聞いてよひーちゃん?」
「どうしたの?」
「うん、さっき聞いたんだ。田中さんに」
僕はその一言で、葵ちゃんがご機嫌な理由に気がついた。別に隠している訳じゃなかったから動揺はしなかったけれど、心の内でやれやれと呟いた。
「何を聞いたの?」
「わかってるくせにぃ」
「桜井さんのこと?」
「うん」
「なんて聞いたの?」
「ひーちゃんの失恋期間が終了したって、田中さん言ってたよ?」
「そっか」
「ひーちゃん、もう好きじゃないの?」
「かもしれない」
「好きかもしれないの?」
「そうかもしれないけれど、以前よりはマシだね」
「ん?なにが?」
「感情が、かな」

誕生日プレゼントを渡す時、木村さんから腕時計を貰った村田さんはとても驚いた表情をしていた。なんで、どうして知ってるの、と小さな声で驚きを表現して、眼には涙を浮かべていた。木村さんは僕に向かって小さくウインクをした。あまり格好のいい仕草ではなかったけれど、僕は木村さんの満足そうな表情に大体満足を抱いていた。
「水谷、おかげで助かったぞ。感謝する」
「やめて下さいよ。僕は何もしてないんですから」
「いや、お前のおかげだよ。あれが無かったら、しまりの悪いパーティーに成ってただろうし」
「木村さんの努力のおかげですよ。こんな規模のサプライズ用意しただなんて、やるときはやるんですね」
「ははっ、俺も一様、男だからな」
その日の木村さんは少し格好良かった。普段そんな風に感じる事は滅多に無かったけれど、今日は格別に素敵だ。
「またなんかの形でお礼はする」
「別にいいですよ。それより良かったですね。上手くいって」
「あぁ。本当に」



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