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恋愛小説
【純愛 恋愛小説】

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恋愛小説(5)-1

僕は変わったのだろうか。以前の僕に、僕はそう問いかける。すると以前の僕は、こう答える。そうかもしれないね、と。僕が、そうじゃないかもしれない?と問いかけると、そうじゃないかもしれない、と以前の僕は言う。太い円柱を挟んで追いかけっこしているようなその問答に、僕は陶酔のような錯覚を受けた。結局答えが出ない事がわかっている質問なのだ。その答えをだすのはまぎれもなく僕ではない。千明や、葵ちゃんや、または別の誰かがその答えを知っているのだろう。
なら僕が変わりたいと思っていることに、意味はあるのだろうか。沼地に足を入れ身動きがとれなくなった自分を、どうにかしたいと思うことは間違っているのだろうか。いや、そうじゃないのだろう。
哲学的な事は、哲学者に任せておこう、と僕は考えるのを止めた。答えが出ない事がわかっているのだ、いったんそれは引き出しの奥に入れておくとしよう。どっちに答えがあったとしても、真実は常に一方通行なのだから。




夏休みが終えると同時に、待ち構えていたかのように様々なことが起こった。交通事故みたいな唐突さでそれは現れ、目の前を凄いスピードで駆けて行き、当事者である僕ら(このときの僕らというのは、千明と、葵ちゃんと、村田さんを含めた四人の事だ。村田さんというのは、言わずもがな、木村さんの彼女の村田知香さんのことだ)を置き去りにし、乱気流の様に様々な現象をおこし、去って行った。夏の終わりの嵐。そんな言葉が似合う、どうしようもない出来事だった。

木村田カップルに破局説が流れ始めたのは十月のはじまりのことだ。木村田というのは木村さんと村田さんカップルの呼び名で、二人はサークル内で忌々しさと羨ましさの両方を込めてそう呼ばれていた。ことの発端は九月の終わりごろで、その時僕らは(つまり、僕と千明と葵ちゃんと村田さんは)屋上でたわいもない話をしている最中だった。その話がだんだんとカップル間の話に変わり始めた頃に怪しい雰囲気が漂い始めたのだ。
「木村さんとはどうなん?上手い事いってるんやんな?」
最初にその事に触れたのは千明だった。千明は木村さんに苦手意識を持っているはずだったので、僕はこの時の言葉にびっくりしていた。
「そうですねぇ。なんか倦怠期って感じです。三ヶ月が過ぎて、お互いなんかなぁなぁに成りはじめているんですよねぇ」
村田さんは悩んでいる風も見せずにそう言った。初秋の屋上は穏やかな天気で包まれており、それが村田さんを饒舌にさせているように僕には見えた。見えたというのは、言葉の通りそのままの意味で、僕は会話が始まって三十分、一回も言葉を発っしていない。つまるところ、僕はこの場いることがおかしい傍観者に過ぎないってことで、女子三人の恋バナに着いて行けないただの置き物と化しているわけだ。
「そうなんやぁ」
「そうなんです。しかもシンジ君(木村さんの下の名前だ)なんか最近妙な感じで」
「妙?」
「はい。なんかよそよそしくって、いつもケータイをいじってて、私といる時も上の空って感じで」
僕はよそよそしい上の空の木村さんを想像してみた。……おかしいのだろうか。いつもどおりの気もしないでもない。
「知香ちゃん、それ浮気されてるんちゃう!?」
「ち、千明!?」
「そうですよねぇ。そうかもしれないですよねぇ」
「い、いや、答えを急がない方がいいと思うよ?木村さんだって就職活動とかでなんかしら忙しいだろうし」
「む、ちーくんは木村さんの味方なん?」
「そうはいってないだろ?ただ話がだんだん予想の話になってきたから、早とちりはしないほうが良いって言ってるだけだよ」
それだけ言うと、一同は黙った。答えをだすには情報が少なすぎるし、なんだかんだ言って、僕は木村田がつき合っていることを微笑ましく思っていたからだ。上手くいっているのなら、その方がいいに決まっている。そのことは千明も葵ちゃんも同じな様で、それ以上その話をしようとはせず、なにかを考えている風を装った。
「それより水谷さんはどうなんですか?まだ桜井さん、でしたっけ?の事を好きなんですか?」
随分と時間がたってから、いきなり確信をつく言葉を第三者である村田さんがそう放った。その言葉に村田さん以外の三人は固まった。夏季キャンプ以来、この話には触れて来なかったのだ。


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