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三人の男たちの冬物語
【SM 官能小説】

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三人の男たちの冬物語(短編2)-6

死んだのはミホコの恋人だろうか…ずっと考えていた。考えれば考えるほど、ミホコが自分とは
遠いところに感じられた。

知らなかった…僕と結婚する前のミホコの過去なんて、聞いたこともなかったし、僕は彼女に尋
ねたいとも思わなかった。


…あなたは、わたしのことを何も聞かないのね…

そんな言葉を一瞬、窓の外の雪の中にぼんやり浮かんだミホコが呟き、その顔がしだいに歪んで
いくような気がした。

ミホコと出会い、結婚し、いっしょに暮らしているあいだに、僕はミホコが何を思い、何を考え、
何を見つめていたのかをほんとうに知っていたのだろうか…。あのころ嗅いだミホコの匂いが
白々と冷めていく感覚に、僕は戸惑い、自分自身がわからなくなる…。



ふと、無意識にあの男の会社に電話をしている自分があった。

…あなたですか…いったい何の用です…今、忙しいんですよ…ミホコって…ああ、あの女ですか
…ええ、結婚しましたけど、二年前に別れましたよ…いいじゃないですか、わたしたちの勝手で
しょう…あなたにいろいろ言われる筋合いはないですよ…


…えっ…ミホコは、今、どこにいるのかって…そんなこと知りませんよ…もう二年も前のことだ
し、会社もやめたみたいですね…ああ、そう言えば、わたしの友人がミホコを見たって、先日、
言ってましたね…


…どこだと思います…G駅近くのSMクラブで、M嬢やっているそうですよ…あの歳で真性M女
なんてやってるらしいですから、彼女って根っからのマゾ女ですかね…あの頃は、わたしも十分
楽しませてもらいましたね…フフッ…



夕暮れの雑踏の中で見上げた街の電光掲示板が、関東地方の雪模様のニュースを伝えていた。

僕は男に電話をしたあと、ネットでいくつかのSMクラブを検索したが、ミホコらしいM嬢は見
あたらなかった。今頃いったいミホコはどうしているのだろうか…胸の奥が烈しく痛むような気
がした。

少し酔っていた僕は、ふとあの店を探す。でも、久しぶりに訪れたSMクラブ「ルシア」はもう
なかった。雑居ビルの地下にある店の扉には、テナント募集の褪せた紙切れが扉に貼られていた。


僕は駆け抜けていった時間を自分の中に感じながら、小雪がちらちらと舞う中を駅に向かってゆ
っくりと歩いていく。


そのとき、偶然に坂の途中の喫茶店のガラス越しに見た女…

燿華というあの女だった。すっかり落ち着いた感じの彼女は、あのころとは別人のようだった。

でも…ミホコとは何となく似ていなかった。あの頃、僕は彼女のどこがミホコに似ていると思い
こんでいたのだろうか…と、ふと心の中で苦笑する。

あのころ、燿華という女の匂いをもっともっと嗅ぎたかった。ミホコの匂いが嗅げるような気が
した。肺の奥にしみこむように胸にいっぱい吸い込むことができる気がしたのだ。
ミホコに似ていたその女から、あのときやっと僕はミホコの匂いのすべてを思い出せたような気
がしたのだ。



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