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恋愛小説
【純愛 恋愛小説】

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恋愛小説(4)-1

僕自身の彼女への好意に気付いたのは大学二回、六月の終わりが近づいたある日だった。梅雨が去って行って、良い風だけが残った、初夏の事だった。
だから僕がこの話をする時に一番に思い出すのは、決まって燦々と輝く太陽と、蝉のつんざく声だ。じりじりとした太陽光線が肌を刺す感覚と、頭の奥でがんがんとなるあの音だ。それに伴い、はっきりとした輪郭を持たない様々なものが現れては、消える。白いワンピース、細い腕、マルボロメンソールの空き箱とマッチ、千明の言った言葉に、彼女の悲しそうな表情。そういうものが次々と現れては僕の心をノックする。それには微かな痛みが伴う。ズキズキとか、ヒリヒリとか、外傷的な痛みではない。もっと抽象的な痛みだ。

僕は水辺を歩いていた。近く、足下の方でさらさらと水が滑っているのが聞こえる。だれかの手を掴んでいる。その手は小さく、冷たく、細い。白いワンピースが良く似合っている。僕が恋する相手、桜井 明菜だ。微笑みながら、小さく首を傾げている。どうしたんですか、とでも言いそうな顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「いや、足場が悪いから気をつけて」
「……はい」
彼女の手をとり僕は歩く。何か目標がある様に。でもその先になにも無い事を、今の僕は知っている。大声でやめろと叫ぶのだけれど、記憶の僕には届かない。力強く足を前に出す僕は、僕が見た事もないような表情をしていた。辛い様な、不思議な様な、でも幸せそうな、笑顔だ。




「桜井、さん」
「そう。今二年で、一昨年の秋頃までは、このサークルにいた」
僕と葵ちゃんはベンチに座っていた。いつもの街の、いつもの公園ではない。知らない土地の、知らない展望台のベンチだ。当たりは一面の闇に覆われていた。闇にも濃度が存在することを、僕は今日はじめて気付いた。眼が慣れてきた性もあるのかもしれない。黒い黒、黒い紺色、黒い青色などが僕には見える。
空には星が輝いている。その日も星が綺麗だったと思い出しながら、僕は煙草を一口吸った。煙がゆっくりと肺に充満するのを認識しながら、出来るだけ丁寧に吐き出す。すーっと白い幕をつくり煙が空へと消えて行く。
「ひーちゃんが二年で、その桜井さんは、今の私みたいに、新入生として夏期キャンプに参加していた?」
「そう。ちなみに言えば、その頃すでに、僕の隣には千明がいた」
思い出そうとも思わない記憶が、僕の意思とは無関係に騒ぐ。心の未発達の部分をどんどんと音をたてて殴り続ける。痛みが伴い、僕はそれを和らげようと煙草をまた一口吸う。紫煙が口に広がり、なんともいえない香りが口内を支配する。
「あえて付け加えておくと、もうその頃の千明は僕を好きだと宣言していたね」
「でも、ひーちゃんはその桜井さんを、好きになった」
「まぁ、そういうことになるね」
始まりは、常に劇的だ。始まるときは、常に劇的なのだ。

気付くと僕は、一心不乱にあの頃の記憶をぶちまけていた。



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