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恋愛小説
【純愛 恋愛小説】

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恋愛小説(3)-1

日差しが強い。どこかで蝉が鳴いているのがわかる。風はない。まったくと言っていい程の無風だ。雲は縦に長く、厚く伸びている。飛行機が雲一筋、キーンと音を立てて伸びて行く。鳥が寄り添うように空を飛んでいた。
大学生の夏は長い。ほぼ二ヶ月も休みが続くのだ。それもそのはずだと言える。七月の半ばから九月の半ばまで、大学での講義は一切無い。僕と千明は何とかレポートを提出する事に成功し、単位を確保することができそうだ。近くに木村さんが半べそをかいている。どうやらまたレポートが間に合わなかったらしい。
「水谷ー。俺はもうダメだ。このまま単位を落とし続けたら、知香ちゃんに学年を追いつかれてしまうかも知れない」
「いいじゃないですか。だったら机を並べて講義を受けることだってできるじゃないですか?」
「……、そうか!その手があったか」
知香というのは今年の春から木村さんがつき合い出した彼女の名前だ。名字は村田という。二人はサークル内の唯一のカップルとして、様々な感情を込めて木村田と呼ばれていた。
「木村、気にするんじゃない」
「ひ、日高さぁん」
「大学の単位など、俺たちの人生において、差したる意味をもたん。なぁそう思わないか水谷?というか思え」
「かってにそっち側の人間に引き込もうとしないでください。僕はダブるのも卒業出来ないのもごめんです」
体格のいい、古代中国の武将の様な髭を生やして僕をそう誘うのは日高さんだ。大学八回生という神的存在でもある。一部アンダーグラウンドでは「マスターヨーダ」と呼ばれているらしい。わからない人はスタ○ウォーズを見るとわかると思う。まだ一学期だというのに、すでに留年の危険にさらせていると言っていた。彼もまた単位を取り損ねたのかも知れない。
「ふん、そうやってお前はいい子ぶっていればいいさ!女にもモテて、そのくせ留年もしない人間を、俺は人として認めん!」
「前者はともかくとして、後者はほとんどの人間が該当しそうなものっスけどね」
そう煙草を吹かしながら僕の代わりに答えたのは水増し野郎こと田中。髪の毛は狼のように銀色一色に染められて、いつも缶コーヒーか煙草を右手に持っている。口が寂しいらしい。一見不真面目に見える彼は一つか二つの単位を落としたものの、しっかりと必要数の単位は確保していた。あの一件以来、本当に心を入れ替えたらしい、田中は案外といっていいほど良い奴だった。
「うるさいだまれ!貴様らにはわかるまい!この俺から通して出る力が」
「な、なんだこの力は?エゥーゴの最新兵器か!?」
「女達の所へ帰れ!シロッコ!」
口答えをしたのは田中と僕なのに、たぶん彼女がいるという理由だけで、木村さんは日高さんにヘッドロックをかけられた。眼が半開きになって白目を向いている。はっきり言ってしまえば、とても見れたものじゃない。
「ぐはぁ!くっ、わ、私だけ死にはせん、お前も道連れに……」
木村さんが手を伸ばしてくるのを田中はイラただしげにはねのけた。田中はフリーなのだ。
「勝手に一人で死んでください」
「なに!?俺とお前の仲じゃないか!?」
「ただのサークルの先輩後輩っスよね」
「木村ぁ!逃げるんじゃない!死ぬか村田と別れるか、どっちかにしやがれ!」
凄まじい二択だ。木村さんは真剣に悩んでいるみたいだが、あのままヘッドロックが決まり続ければ、死の方から迎えに来てくれる事だろう。



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