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『朱の桜』
【ボーイズ 恋愛小説】

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『朱の桜』-2

 ソラの自転車の後ろに座り、オレは水平線を眺めた。
 傾いた夕陽の光が、雲を鮮やかに彩っている。
 海岸通に並んだ桜が舞い、そのひとひらが斜陽に映えていた。
 その花弁を舞わせる髪が、ソラの癖の強い長い髪を靡かせる。

「捻挫治ったらさ」
「…………うん」
 前で自転車をこぐソラが、不意に話しかけてきた。
「また前みたいに跳んでくれよ」
「………なんで?」

 治ってからじゃ大会間に合わない事、オマエだって知ってるだろ?
 ソラの肩を掴む手に、自然と力が入った。

「俺はさぁ、お前が高跳びやってねーと寂しーの」
 背中越しで顔は見えないが、少し拗ねた様な口調でソラは答えた。
「……………なんだよ、ソレ」
「あのバー越えてるウミはぁ、俺のお気に入りだから。だから、インターハイ行けなくても大丈夫」

 告げられた言葉に、オレは見つめられてもいないのに視線を夕陽の方に向けた。
 こーゆー事は云われ慣れてるけど、云われると云われるでなんか、妙に照れる様な気分だったり。

 ……………でも、ソラの傍はやっぱり落ち着く。
 どんな傷も、コイツの傍なら癒える気がするから。
 だからずっと……………このままで……………。

「ぁ、ヤベッ………」
 急に、ソラの押し殺した声が聞こえた。

 何があったのか理解する前に、鋭く耳に響くブレーキ音を聞きながら、オレは路上に投げ出される。
 前にいるソラも一緒にだ。

 目の前にあるワゴン車が、何があったかを示している様だった。
 途端、身体に強い衝撃が跳ねる。
 オレの意識は途切れた……………。


 次に目が覚める時にいたのは、真っ白な病室だった。
 何があったのかは其処ではっきりと知らされた。
 もう判っていた事だが、やはり交通事故だった。
 オレは頭を打ってほんの暫く昏睡していたが、大した怪我もなく済んだらしい。
 ただ……………また右足を強打して捻挫じゃ済まなくなったくらいだ。
 もう今更、それがもとに騒ぎ立てる気力すらなかった。

 そんな事よりも気になっている事があるのだ。

 ソラ……………ソラだ。


「なぁ迅汰、ソラは?」
 見舞いに来たソラの弟に、オレは尋ねた。
 五人いる弟の中でも一番ソラに似ている中三の迅汰が、窓の外からオレに視線を移した。

「ぇー……………兄ちゃん?」
 返ってきたのは、半ば消え入りそうな声。
 その返答から、オレはイヤな予感を感じ取った。


 迅汰に連れられ、静かな病院の廊下を歩いた。
 幸い右足は無事で、どうにか車椅子は免れた様で、オレは慣れない松葉杖をつく。
 痛む右足を引きずり、オレの速度に合わせてくれる迅汰に気遣われない様にどうにかついていった。

 前を歩く迅汰が、背はまだ足りないものの、あのソラに重なる。
 ソラは……………どうなってる?


「此処、兄ちゃんの病室」
 オレは奥の病室に連れ込まれた。オレの部屋からはあまり離れていない。

 真っ白な病室は静かで、無機質な電子音だけが響いていた。
 ベッドからコードやチューブが覗いている。

「………ソラ──────?」

 オレは近付いて絶句した。
 彼に繋がれた機械は、規則的にソラが生きている事を伝えている。
 しかし……………意識だけは此処にないのだ。


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