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【純愛 恋愛小説】

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恋愛小説(1)-17

「うん。でもな?ちーくんが優しく私を抱き寄せてくれたとき、私、すっごい幸せやったんやから。やし、たまにそういことしてくれたら、それでいい。待つから。私」

この時の千明の顔を、僕は後世忘れる事ができないだろう。人はこんな表情もできるのだ、と僕の頭は嫌に冷静になっていた。いや、もしかしたらオーバーヒートの間違いだったのかもしれない。

「うん、ありがとう」

「ちーくん、優柔不断やからなぁ。たぶんこうなるんじゃないかなって思ってた」

「いつから?」

「ん?」

「その、いつから、その……なんていうか、僕のことを?」

「そんなん、最初っからやん」

「最初?」

「うん、最初」

「最初っていうのは、やっぱり新入生歓迎会からってこと?」

そうだったのだろうか。千明の仕草や行動に、そんなメッセージはあったのだろうか。




「ちゃうよ。たぶん生まれる前からやん」










一陣の風が通り過ぎる。風は肌にさす様な寒さを伝え、僕の腕の中で千明は少し震えていた。

僕はといえば、ずっと考えていた。心の奥の方が、なにやらざわざわする。不安にも似た感情なのだが、でもそれとは決定的に違う。理解はできない。はっきりと言える事は、嫌な感じはしないということ。

「ちーくん?」

「ん?」

「寒くない?」

「多少は」

「私ん家……行かへん?」

千明は大学の近くで一人暮らしをしている。いつか、おいしい水を飲んだ記憶が不鮮明に蘇った。

「僕はいいけど、千明は、それでいいの?」

「ん?なんで?」

「だってその、なんだろう。とにかく、一人暮らしの女性の家に、若い男が行くわけだし」

「なんもせえへんやろ?ちーくんは」

「約束しよう」

「ん。なら大丈夫。行こ?」

僕は千明の腕をそっととり、家がある方向に歩きだした。太陽が真っ赤になりながら傾いている。その光を遮る僕らの足もとに長い影ができている。僕らの足取りと同時に、影は滑る様に地表を動く。


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