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『夏、指切り、幻想』
【ボーイズ 恋愛小説】

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『夏、指切り、幻想』-2

「…………カラス、いないのか……………?」
 賽銭箱の前に歩み寄りながら、俺は辺りを見回した。

 離れの建物、池、御手洗……………。
 何処を見回しても、人の気配はない。

 ……………カラス、もう逢えないのか?
 去年俺が来なかったから……………。

「あ、落ちっ…………」

 項垂れた途端、どこからか微かに声が落ちてきた。
 そして、何かがコトリと落ちる音。
 はっとそちらに振り向くと、御神木の下にスニーカーが落ちている。しかし、声の主の姿はない。

「涼斗、こっちこっち」
 こっち……………?
 声につられてもっと高い方を見やると、御神木の葉の合間に、細くて白い足首が見え隠れしている。
 ガサッと細い枝を揺らすと、もっと低い枝まで降りてきた。
 凛とした眼差しの、中性的で整った顔立ち。真っ直ぐな黒髪。
 忘れやしない……………カラスだ。

「ひさー、カラスッ」
 俺は御神木に駆け寄った。
 カラスはゆっくりと枝から枝に移ると、頃合いを見計らって地面に飛び降りた。
 真っ白なYシャツの裾がひらりと捲れる。
 部活か何かの帰りだろうか?通学鞄は見当たらないが、服装を見て考えた。

「去年来なかったよね。待ってたのになぁ」
 カラスは落ちた靴を拾った。
「受験ヤバかったんだって、マジで」
 二年ぶりに、久しぶりに逢うカラス。
 再会が嬉しくて、二人はどちらからともなく笑い合った。


それから俺等はそこら辺を走り回った。
 駄菓子屋で買い食いしたり、防空壕の跡を探索してみたり、色々。


「冷てぇ……………」
 涼斗は小川に手を浸した。
 さらさらと流れる清水は、ただそれだけで俺の火照った手を冷やしてくれる。

「涼斗」
 カラスの涼しげな呼び声に振り向くと、笹舟を手にしたヤツの姿があった。
「涼斗もやらない?」
 柔らかい微笑みを涼斗に向けながら、カラスは笹の葉を差し出した。
「やる」
 俺はそれを受け取ると、ヤツと同じ様に笹舟を作った。

 そして二人は屈むと、一緒に水面に浮かべた。
 二つの笹舟は緩やかに流れていく。

「あ、いきなり沈んだ」
「はい、カラス脱落。俺の勝ちな」
 カラスの笹舟は、段差に引っ掛かって傾き、沈没した。
 その様子を見て、二人は笑う。
 その間、俺の笹舟は進んでいった。
 途中、岩に突っ掛かりながらも、沈みそうになりながらも、どんどん進んでいった。
「涼斗、すごいよ。遠くまで行っちゃうね」
「あぁ。あんなに流れてくのは初めてかも」
 笹舟を眺める俺の隣で、カラスは笑んだ。

 俺はふと、カラスを見た。
 カラスの微笑みは何故か、少し寂しげだった。
「……涼斗は遠くなっちゃうね……………」
 独り言か、カラスは僅かに呟く。
「どうした?」
 なんだかその仕草に俺まで切なくなって、ヤツに問い掛けた。


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