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脚本 月の船
【歴史物 官能小説】

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脚本 月の船-1

M 河に沿って続く白い土塀の縁を女の手を引いた男が駆けて来る。

SE けたたましい笛の音

役人(声)「こっちだ、逃がすなっ!」

呼笛の音が響きわたり、仄暗く浮かぶ白い土塀に御用提灯の灯りがところどころ映し出された。

女「あぁっ…」

つまづいて倒れ込む女。
男は女の脇を抱きかかえると後ろを振り返り、川面に揺れる一隻の船に飛び降りる。

男「姐さん、こっちだ」

自分に続いて女を引き下ろせば華奢な釣り船は大きく揺れ、二人は抱き合うようにそこに屈みこんだ。

役人(声)「こっちに逃げたぞ
探せ探せ」

間一髪のところで土塀は明るく照らされ、船の上に身を潜める二人の頭上を灯りが交錯しながら通り過ぎていく。

それを見計らって男は帯をほどくと着ているものを伏せた女に被せて、船首を結わえた縄をもどかしげに解いてよろけながら堤防を蹴る。

その反動で船首を操る竹の棹は水面に転げ落ち、男はそれを拾おうと身構えたが間に合わず、諦めて頭を低くする。

自由になった小さな釣り船は河の流れにまかせてゆっくりと進み出した。

SE 水の音

裸の男は船の上。
姿勢を低く構えてもう一度後ろを見据え、女の姿を隠した着衣の中に潜り込んで体を伏せる。

船底には男と女の荒い息が混ざり合う。

役人(声)「おい、あれは?」

SE 捕物棒が船を叩く音

二人が潜む船の縁を岸部から長い棒で手繰り寄せようとする音が響く。

二人は息を殺して重なり合い、身じろぎもしない。

役人(声)「おい、こっちだ
まだ遠くには逃げられまい」

SE 複数の足音

岸部では男たちが駆けていく足音だけが遠のいていく。

SE 水の音

釣り船はあてもなく、ゆらゆらと揺れながら本流に乗り水面を切って進みだした。

あたりは水の音しか聞こえない。
男は身を起こして周りの様子をうかがう。

そこはすでに真っ暗で何も見えない。

男「姐さん、もう大丈夫なようですぜ」

女もそっと起き上がってあたりを見るが蒼黒く浮かぶ船の縁以外には何も見えない。


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