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彩りの荒野
【その他 官能小説】

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彩りの荒野-1

結婚してから12年が経った。
娘も今年で5年生になる。

私もいつしか四十を越えて平穏な生活を繰り返す[ 有り難み ]というものを感じる年になったのかと近頃思う。

ただ、私は今まで比較的平穏な人生を送ってきたとも思っている。
何か秀でたものもなければ、とりわけ劣等感を感じる事もなく…

また多くの人間はそんな風に生きていると私は思っている。


あたたかな家庭に恵まれ、仕事もそこそこの充実に恵まれて何が不満かというわけではないけれど…
私はあるひとりの女性を愛してしまったのだ。

彼女は仮に[ 麻美 ]としておこう。
感じのいい子だった。

若い時なら気軽に女の子に声をかける事も躊躇してしまうものが所帯持ちの四十男ともなれば、意外に気軽に声をかける事ができるものだ。

なぜなら彼女たちにとって[ 審査対象外 ]とされるからだ。
気のいいおじさんになってしまえば若い女の子が男の気を惹こうとして、わざとらしく若い連中の前で腕を組んで見せたり甘えて見せたりもするという特典もあったりする。

しかしながらそれは我々がすでに恋人対象外であるからこその特典である事をくれぐれも忘れてはならない。

そう、私も大人なのだから…

ところが麻美は違ったのだ。
私は少なくとも彼女を愛してしまった。
これだけはどんな言い訳よりも真実だ。

「リスト…私も好きなんですよ。
いつかあんな曲を弾いてみたいと思ってピアノを習ったりしたんですけど、結局続かなかったんですよ。」

明るく笑う彼女がいた。
何の話からだったか忘れてしまったけれど、ピアノの話をした事があった。
私だってクラシック音楽など若い頃に聴きかじった程度のものだけど彼女がピアノをしていたという話からリストの協奏曲の話をした事があった。

麻美は本当に礼儀正しくて、決して他人の事を悪く言わない女の子だった。

思えばそんな彼女を見いだした時に私はすでに彼女に特別な感情を抱いていたのかも知れない。

そしてしばらく経ってから、私は市の交響楽団がその名も知らぬピアニストを招いて演奏会をするという話を広告で見た。

「良ければ行ってみないかい?」

「いく、いく。
リストを生で聴いてみたい。」

私は彼女の二つ返事を聞いて、初めて自分の事を振り返ったのだ。

もちろん、期待がなければ声もかけなかったのだが若い女と二人で演奏会に行くとは妻には言えない。

誘っておいて快い返事をされると戸惑ってしまう…
それほど私は平穏な人生を送ってきたのだ。

ならばいいじゃないか。
覚悟を決めろよ。


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