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葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件
【推理 推理小説】

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葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件-28

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 トイレ……を目指さず、向かった先は上手側。
 ピアノを運ぶべく、石塚たちが四苦八苦しているのが見えた。
 真琴はそれをかわしながら、テーブルに大々的に張られた予定表を見る。それには出演者、スタッフの行動が細かく書かれており、直前まで変更があったせいか、何度も赤のペンで修正がされていた。
 それらはほとんどが由真の字であった。当然といえば当然だろう。彼女は司会兼、裏方の統括を行っており、続行後もしっかりと指揮を執っていた。
 彼女の本番強さなのか、それとも度胸の賜物なのだろうか?

 ……彼には気になることが在った。それがここに来た理由……。

「鳥羽さん」
「ん? なんだい?」
 ステージの上で清掃作業をしていた邦治に声を掛ける。彼は床に張られていた目張りを剥がしながら真琴に向き直った。
「喉渇いてませんか? 鳥羽さんの分、持って来ました」
「お、ありがとう。さっきから聴取だのなんだのでずっと質問責めのしゃべりっぱなしで喉が痛かったんだ」
 邦治は真琴から紙パックを受け取ると、遠慮なくのみ始める。
「それで、ちょっと聞きたいんですけど……」
「なに? ジュースのお礼に答えるよ……」
「はい、僕が聞きたいのは今日のスケジュールなんですけど、鳥羽さんは聞いてましたか?」
「いや、それが今日は本当に初めてでさ、石塚さんから指示受けるとか聞いてたんだけど、なんか磯川さんの指示待ちになったんだ」
「そうですか。幕間の準備とかは全部磯川さんが?」
「ああ、平木さんだっけ? あの人は特に打ち合わせに出てなかったし、ほとんど磯川さん主導で石塚さんも俺も皆言われるまんまかな?」
 邦治はステージにから降りると、マイクのコードをまとめ始める。
「佐々木さんも?」
「佐々木? ああ、平木さんの代役の人ね。うん。最初は俺らと一緒に幕間準備みたいだったんだけど、ああなっちゃったからね。まぁ、そんなに人数必要だったわけじゃないし、あれぐらいで十分なんじゃないの? まぁ、こっちも楽にお金貰えるほうがいいけどね。今月厳しいし……」
「? えと、鳥羽さんが頼まれたのって急な話なんですか? 前からじゃなくて……」
 彼はボランティアでは無く、アルバイトらしい。だが、そうなると過剰に人員を用意する理由があるのだろうか?
「ああ、急遽人が足りないからって言われたね」
 紙パックをストローで支えていた邦治はしゅこーしゅこーと音を立てた後、握りつぶして胸ポケットにしまう。
「他には何かあるかい?」
「はい、あの……、第二幕が始まってから鳥羽さん、下手にいたんですよね」
「いや、そうなんだけど、昼食とってからだからずっとじゃないな。その後も磯川さんに譜面台もってくるように言われたし……」
 邦治はステージにから降りると、マイクのコードをまとめ始める。
 事故直後、駆けつけた真琴が見た下手の風景は、倒れた譜面台と台本の一ページ。
 だが、第三幕を開演するに当たって真琴は特に何かを準備することは……?
 紙パックをストローで支えていた邦治はしゅこーしゅこーと音を立てた後、握りつぶして胸ポケットにしまう。
「他には何かあるかい?」
「はい、あの……」
 ――そう言えば……。
「下手の小さいほうのドアが開いていたみたいですけど、覚えています?」
「ドアが開いてた? いや、知らない。見て無いけど、俺は開けてないよ」
 思い出そうと斜め上を見る邦治だが、心当たりはないらしい。彼はまとめ終えたコードを手にステージに上る。


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