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葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件
【推理 推理小説】

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葉月真琴の事件慕〜欅ホール殺人事件-23

「落ち着いて。今更見たところで何も変わらないわ。警察からも現場を乱さないようにと言われてるの。まずは落ち着いて……」
「だけど……!」
 理性ではわかっているものの、感情では割り切れないらしく、石塚はまるで由真を犯人がごとく睨む。
「そんなことよりも三幕よ。もう直ぐ二幕も終る。皆には一郎のことは内緒にして、続けるわ」
「な、バカな! 一郎があんなことになってるのに、どうして続けられるんだ!? 一郎の代役は誰がやるんだよ!」
「今さら中止することは出来ないわ。一郎の代役ならあてがあるわ。佐々木君に演じてもらうから」
「ぶっつけ本番でできるのか? 無理に決まってるだろ」
 むちゃくちゃだといわんばかりの石塚だが、由真は引く様子を見せない。それどころか強気に見える。
「今からキャンセルなんてしたらどれだけのお金が発生すると思ってるの? 貴方は部外者だから中止って言えるでしょうけど、私達には一回一回が綱渡りの勝負なの。一郎だってこんな形での中止なんて納得しないわ」
「……わかったよ。乗りかかった船だ。最後までやるよ。だけど、どうなっても知らないからな……」
 石塚はやり場の無い怒りを壁にぶつけると、そのまま上手へと戻る。邦治は由真と彼をきょろきょろと見た後、上手へと移動する。
「ふぅ……」
 残された由真はモニターを見つめたあと、会場の沸き起こる拍手と暗転する舞台を確認し、ドアを開ける。
「葉月君、急いで……」
「は、はい!」
 その言葉に役割を思い出した真琴は彼女に続いて舞台へ出る。
 真琴は並べられた椅子へと向かい、不要となった譜面台を小脇に抱えて走る。
 舞台の向こう袖のほうで真帆が上手へ戻るのが見えた。
 彼女が一郎のことを信頼していたこと知る真琴には、その後姿を見ることさえも辛くなってしまう。
 せめてこの幕間、彼女が真相を知らずに三幕へ挑めたらと願うばかりだった……。

**

 第三幕は演劇のクライマックスと合唱。
 出演者の一部は一郎が来ないことにちらちらと上手を見ていたが、代役である佐々木の無難な歌声に、自分の番を待つようになる。
 だが、事故を知る上手側はそうもいかない。
 石塚はまだ一郎の事故に苛立ちがあるようで、機器に向かいながらも何かを呟いており、特に仕事の無い邦治は頭を抱えていた。
 冷静というかは別として、石川はヘッドホンを押さえながら頷くのが見える。彼も事故のことは知らされておらず、音の不調が直ったことで上機嫌に見えた。
 そして由真。
 彼女も視線をモニターに向けており、微動だにしない。
 だが、その瞳は赤く濡れており、その心中が伺えた……。

**

 喝采の拍手のもと、舞台が暗転し、幕が下ろされる。
 完全に閉じるのを待ってから扉が開放され、出演者達のにこやかな顔が上手へと流れてくる。
 だが、彼らを出迎えるのは……。

**

「嘘……」
 呆然とする真帆。
「先生が……」
 急な代役を頼まれた佐々木は驚きのあまり二の句が告げない。
「だから来なかったの?」
 富岡は手話の赤坂に向き直り、驚いた様子で手のひらを上にする。
「一郎さんが……!? 嘘、何かの冗談でしょ? だって、さっきまで私達と一緒に……」
 狼狽が激しいのは一郎の恋仲にある久美。青ざめたと思ったらふらっと足元を乱し、そのままへたり込む。
「ちょっと久美さん、落ち着いて……」
 慌てて由真が支えるが、その手にすがる力もない。
「ええ、でも……ねぇ、嘘でしょ由真さん……、先生が、一郎がそんなこと……」
「落ち着いて……。とにかく……一旦控え室に行きましょう」
 由真は久美に肩を貸して立たせると、上手の控え室へと連れて行く。
 スタッフの反応は様々だが、皆一応に顔を曇らせており、うなだれた様子だった。


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