愛を知らない役者 (後編)-4
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「……ふぅ」
会場の喧騒から逃れ、バルコニーへ出たソフィアは、冷たい夜風に当たって思わず溜め息をついた。
会場は、つい先程、遅れて登場した映画会社のCEOのスピーチが終わったばかりだ。
「…あんのクソジジイ」
みごとな銀髪のCEOは、特にソフィアがお気に入りで、今もソフィアを壇上に呼び上げ、集まった記者達にツーショットを撮らせていた。
問題はその最中で、腰に手を回すふりをして、彼はソフィアの尻を堪能していたのだ。
眩しいフラッシュに、慣れない重い髪飾り。
頭痛がしてきたので、ソフィアは外の空気を吸いに出たのだった。
…しかし。
「見ーつけた。」
「…ダン」
「あらら、ずいぶんお疲れのようだね、オレを追い払いもしないなんて。
はい、ストールだよ。
体を冷やさないで、ソフィー」
へへっ、とダンは得意気に笑った。
「…ありがと。
…何よ、御褒美なんて出ないわよ?」
「やだな、オレが欲しいのは御褒美じゃないよ。
オレの愛、しいてはソフィー、きみの愛を、認めてほしいだけ」
「私の愛?
…8歳年下に愛は無いわよ、消えて」
「…ったく、素直じゃないな」
―ぐいっ、どんっ!
「痛っ…!」
「あはは、あのシーンと同じだね、"ダニエル"。
まぁた年下の少年に背後を取られてる。
いい格好」
バルコニーの外の壁に顔や胸を押し付けられて、耳元でからかいの笑い声を聞かされる。
「離してよ、ダン!
…あの時から、ふざけてばっかり。
お互い、本気になんかなるわけ…!……んぅっ!」
たやすく体を裏返され、ソフィアの抗議は荒々しい口づけに遮られてしまった。
―ちゅっ…
「…っ、はぁっはぁっ…」
驚きのあまり、抵抗もできずにいるうちに、それは終わり、ソフィアは彼と見つめ合ったまま、体を震わせていた。
ダンが口を開く。
「こうしても分からない?
何か気付くことがあるでしょ、ソフィー」
「…気付く?
……ダン、背が伸びた?」
確かに、彼は撮影時、ソフィアよりも10cmは下だったはずだが、あれから半年以上も経っている。
16歳の育ち盛りだ。
「………ソフィー、きみこそ、ふざけているの?
…いや、んなワケないか、ここまで震えといて。
ホント、天然ボケなんだから…。
…ね、さっきの、CEO」