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愛を知らない役者
【ファンタジー 恋愛小説】

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愛を知らない役者 (後編)-3

さすがに数週間ぶりの風呂は気持ちが良かった。
…しかし、途中から妙な気分が抑えがたくなってきた。

「…くっ…はぁっ、はぁ…」

ぐぐっ、と牙が伸びてしまうのを、コントロールできない。
頭がぼうっとして、頬はカッと熱い。
肌は粟立ち、手足がカタカタと震える。
気分はまるで、発情期の狼だ。

何しろ、血をいただくのも数週間ぶり。
船内には、ワイルドな海の男達ばかりだったから。
いや、昔の俺なら、男女かまわず飲んでいた。
しかし、今、恋しい味は、甘みの強い幼い血。
最近の俺は、味にこだわるようになってきてしまった。
いや、違う、こだわるどころか、好みが固定されてしまったんだ。

そう、あのアンジェリカのような、まだ若い、素直な頃の血が、好物になってしまった。
だから、どうしても船内では食指がそそられず、ここまで我慢していた。
その点、ガルハーンは売り物でありながら、素の性格は率直なようだから、なかなか期待できる。
ますます牙がいきり立つのを感じながら、急いで湯浴みを終えた。


ガルハーンは、都合の良いことに、ベッドに座り髪を拭いているところだった。

「あ、おかえり、ダニエル。
どう、気持ち良かっ…え、なっ!?」

4色の瞳の術をかける余裕も無い―。
そのままベッドに押し倒し、頭に巻かれた布を少しだけ下げさせて、目隠し代わりにする。
そして、ガッ、とガルハーンの首筋を晒け出した。

―さぁ、飲ませてくれ…!

その瞬間、噛み付こうとしたまさにその場所に、覚えのある匂いを感じた。
粉の匂い。
思い出したのは、先程の水色の小箱。
血に飢えて失念していた、あの"妙なもの"。
――あれは、浅黒い彼の肌色の練り物だった。
なぜ、首筋に…!?

「っ!?」
―どさっ

とまどい、動作が止まったのがいけなかった。

「痛っ…!」

あっさりと、年下の少年に背後を取られ、今度はこちらがベッドに押し付けられてしまった。

「な、何をするっ!」

「ふん、これはこっちのセリフさ!
きみのしたいことは、残念ながらオレには受け入れられないんだよね」

「な…なんのことだ…」

「ダニエル、きみ、ヴァンパイアでしょ」

「…!!」

「オレには、術も効かないし、ましてや他人に飲ませてやる血なんか無いよ」

「……」

「…へぇ、こういうタイプに出会ったのは初めて?
さては、まだ片割れには、出会っていないんだ?」

そして、くすくすっと笑うと、こう続けた。

「そりゃまぁそうか、こんな宿に来てるんだものね。
教えてあげようか、オレも、ヴァンパイアなんだ。
あるひとの、"永久の伴侶"なんだよ」






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