愛を知らない役者 (後編)-10
一千年ぶりに再会を果たしたエターナル・ラヴァーズを残し、俺は石の館に戻っていった。
(…あのアンジェリカが、俺の"永久の伴侶"だって!?
なぜ分からなかったんだ…?
…あの子の"あの味"が…愛…?)
考える程に、思い出す度に、強烈な飢餓感に襲われ、俺は夜明けを待たずに館を飛び出し、たったの一晩で、南の大陸を離れたのだった。
そして今度は、ある一人の少女を探す旅が始まる―…。
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「私が、『もう"永久の伴侶"を見付けてる』…?
それが自分だと、あなたは言いたいの、ダン?」
ソフィアは、壁に押し付けられたまま、5cm下のダンの強い瞳に問いかける。
「そうだよ、ソフィー。
君は…
いや、君だけじゃない、"ダニエル"もだ…、
『愛する』って気持ちが分からなくて、長くさまよっていたんだよね。
でも、"ダニエル"の時は、ちゃんとアンジェリカに出会えたじゃない?
どういう気持ちで演じていた?
まさか、"愛を知らないヴァンパイア"のままで演じていたわけではないんだろ?」
「もちろんそうよ、でも…!」
しん…、と一旦言葉を切ってから、ソフィアが口を開く。
しかしその呟く声は、低い男性のものだった。
「『…でも俺は、恐かったんだ…。
"永久の伴侶"は、まだ俺を待っていてくれるのだろうか、
こんなにも永い間待たせて、怒っていやしないか、
いや、そもそも、俺に気付いて、受け止めてくれるんだろうか、
そして…ちゃんと俺を、ヴァンパイアである俺を、愛してくれるのか、
…って』」
彼女は、8歳も年下の男に両腕を戒められながら、ダニエル役の独白シーンのセリフを口にしていた。
瞳を上げると、ダンの熱い眼差しとぶつかり、意識が、焦点が、現在に戻って来る。
「そう、"俺"は…
ダニエルは、それから私自身も、…恐かったんだ。
たった一人のひとに、出会あえるのか、ということが。
愛し愛される、という事が、なんだか夢のようで…本当に幻のまま、人生が終わってしまう気がして…。
…でも」
くすっと笑うと、彼女にはもう、"愛を知らないヴァンパイア、ダニエル"の面影は無くなっていた。
「でもね、ダン、笑っちゃうの、これが、"ほだされる"って事かしら?
撮影中、いつも声をかけてくるあなたに、だんだん心を許し始めて、
信じる心を取り戻したダニエルを演じて、
今、あなたにキスされて、…嬉しいって思っちゃって。」