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フォール
【家族 その他小説】

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フォール-5

「柚ーーーっ!!」


生きてんなら返事しろ。
水の中だってちゃんと聞こえるんだよ、分かってんだから。

柚・・・!

一分くらい経ったけど上がってくる気配が無い。
泡も大分消えてようやく見える様になり、柚の姿を見つけた。


「・・・・・・!!」


蹲る姿がものすごい速さで私に近づいてくる。
いや違う、私から近づいてるんだった。

弟の姿を見た瞬間、私は躊躇わずに飛び込んでいた。
まさかこうなるなんて、まだ子供だった頃の自分は想像してたかな?
いま行くよ、あと少し

もう少し・・・

私の体は水面に叩きつけられ、槍の様に伸ばした両手が床に突き刺さりそうになる。
鼻の穴を刺す様に水が入り込んできた。
たまらず、すぐに酸素を求めて落ちてきた方向と真逆の方へ体を突き動かす。

「かっはぁあああっ!!はぁ、はぁはぁはぁあ、うぉえぇっけほっ、うぐぅ!!」

柚は?弟はいずこ?
来てやったんだぞお前の姉上が、だから早く見せろ。
あの憎たらしい笑顔を見せなさい。さあ、早く・・・


「意外と速かったな、飛び込むの」

水を吐き出そうと必死な私をよそに、柚は涼しげな顔をして仁王立ちしていた。
まず無事なのを確認してから、弱点である左右の乳首をつねりあげる。

「や、やめろよ、人がいるところで」
「顔を赤くすんな!!げほ!うぉえ、吐き出すぞ!」
「心配してくれたんだな、姉ちゃん」
「はあ?!違うっつうの、くたばられたら面倒だから・・・」


・・・まさか、こいつの狙いは・・・

血の繋がりってのは嫌だな。
確証は無いけど、柚が死んだふりをしてたというのが分かってしまった。
そして、その狙いも・・・

私が飛び込むのを待ってたんだ。こうでもしないと決行しないと思ったんだろう。

実は、子供の頃から何度も柚に一緒にやろうとせがまれていた。
高所恐怖症の私は飛び込み台に登れるはずもなく、拒絶し続けてたんだ。

最近は言わなくなったしようやく諦めたと思ってたのに・・・!

「姉ちゃんも成長したな、さっき台に上がる時もあまり怖がってなかったぞ」
「気のせいだよ!すっごい怖かったんだから!」

なぜ、登れたのか。
多分弟に誘われてそわそわしてたからかもしれない。
本当は知らない。子供の頃から怖かったものが何で平気なのか、そもそも平気なのかさえ定かじゃない。

しかし、誘われて飛び込んでしまったのは事実だった。
してやったりという、勝ち誇った様な顔をしてる柚に腹が立ってきて、掬った水を思い切り投げつけてやった。


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