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夏の怖い話
【ホラー その他小説】

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夏の怖い話-9

『娘が見たモノ』


「ちゃぷちゃぷに行こっか?」

「ちゃぷちゃぷ行く〜! パパと行く〜!」

うちの娘、とにかくお風呂が大好きなんです。
入浴することが好きなんじゃなくて、風呂場で僕と遊ぶことが好きなんですね。
いつものようにハシャギながら風呂場へ行き、服を脱がせて中へ入るや否や、これまたいつものようにまずはオシッコする娘。

「オシッコ出たよ〜、いっぱい出たねえ!」

「あらら、ほんと、いっぱい出たね〜」

温めにしてあるお湯を浴槽から掬い、床と娘のお尻へバシャバシャ。
上半身へは洗面器に入れたお湯を手ですくい、軽くピチャピチャとかけてから流していきます。一気にかけたら嫌がりますので。

「今日はどれで遊ぶのかな〜」

「今日はね、これをね、こうしてね」

玩具を手にとり、それをジイッと眺めている娘に適当な声をかけながら、お尻と足をササッと洗いゆっくりと抱え上げてから浴槽へ。

「今日は緑色にしよっか?」

「みどり〜? うん、いいよ」

さっそく玩具で遊びはじめている娘に言いながら、新緑の香りがするという入浴剤をお湯の中へ入れました。

「わあ、鮮やかな緑〜! ほら、見てごらん、とっても綺麗になったよ」

僕の言葉でパッと視線を玩具から湯船へ移す娘。
と、その緑色の水面を見た瞬間、いきなり娘の表情が変わりました。
そして、すぐにベソをかきながら浴槽から出ようとしたんです。

「ど、どうした? あっち行くの?」

「あっち行く〜、あっち行く〜」

まだ自分の力では出られようもない浴槽を、娘は必死になって出ようとしていました。

「ほら、もうちょっと此処で遊ぼうよ、ねっ」

玩具を使い、何とか娘を思いとどめさせようとしましたが頑として聞きません。
それどころか、もう泣き声まで上げて必死に浴槽の縁を掴んで片足を上げています。

緑色の入浴剤は今日が初めてだったんで、もしかしたらこの色がいけなかったんだろうか……。

そう思い、僕は溜息を洩らしながら娘を抱え上げました。

浴槽の外へ出しても愚図りつづける娘。
何をしてもダメで、この日は娘の入浴を途中で断念することに。
娘はこの時を境に湯船を恐れるようになってしまい、どんな手を使おうが頑なにお湯の中へは入らなくなってしまいました。

それからは『ちゃぷちゃぷ』という言葉ではなく、『ジャーってしようか?』という言葉で娘をお風呂へ入れるようになり、その言葉通りシャワーだけの入浴が続きました。
その際、浴槽にお湯を入れておくことすら酷く嫌がるので、ゆっくりとお湯に浸かりたいときは娘を先に上げてからじゃないと浴槽に湯を落とせません。
それが面倒になり、ある日、何気にもう一度『ちゃぷちゃぷ行こっか?』と娘に言ってみたんです。が、やっぱり娘は激しく首を横に振るばかり。


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