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「Mになった女王様」
【SM 官能小説】

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「Mになった女王様」-5

「冗談じゃないわよ!」
美恵は叫ぶと同時に金属バットが振り下ろされる。ゴッ、と鈍い音がしてそれは弘志の胸に当たった。一瞬眼の前が真っ白になり、次の瞬間すさまじい激痛が体を襲った。
「なんで私が資料室勤務なのよ!」二発目、背中。
「私の失敗じゃない、みんな営業二課のやった事だわ!」三発目、左足。
「私に責任を押し付けるなんてあんまりだわ!」四発目、腹。胃の内容物が口元まで上がってくるのを感じた。何度も気を失いそうになるのを必死で耐え、目を見開き美恵を見た。
「何よ、その目は。あんた奴隷でしょ?あんたまでそんな目で私を見る気!」
酔っているせいか、足元はふら付き、目はつり上がり、髪は乱れ、それでも美恵は力任せにバットを振るい続ける。弘志が肋骨と鎖骨が折れたな、直感した時、美恵はコロンとバットを床に落とした。真っ青な顔をしてフラフラと洗面所へ行き、さかんに戻しているようだ。再度洗面所から出てきた美恵はすっかり生気を失い、まるで亡霊のようにうつろな目で弘志の前をすうーっと通り過ぎ寝室へ入ってしまった。
「ダメだよ、美恵さん… 服を… 着替えなきゃ… シワになっちゃう…。」
かすれるような声で弘志はそう言ったが、もう気力の限界だった。縛られて天井から吊された手首が感覚を失い、今にもちぎれてしまいそうだ。全身に激痛が走り回り、必死にこらえてもあと数秒で意識が飛ぶな、と思った。
「あなたは…そういう女性じゃないんだ… あなたは…。」
最後に力を振り絞って言葉を出したが、美恵の耳に届くはずもなく、弘志はがっくりと首を垂れた。
(あなたは、本当はみんなから好かれる女性のはずだ。そして強い男に寄り添って幸せを感じる、そういう人なんだよ…)
薄れいく意識の中でもはや死すら覚悟した。
(美恵さん… それでも… 俺はあなたが好きだ…。)


二日間意識不明だった弘志が意識を取り戻すと、町外れの小さな救急病院は慌ただしくなったが、命に別状がないと確認されると、ようやく病室は静かになった。看護師や医師と入れ替わりに入ってきた警察官の事情聴取に対して弘志は、
「ただの痴話げんかだ。」と言い張った。
しかし、腕や足、あばらなど八カ所もの骨折がある上、全身に暴行によると思われる傷やあざがあり、全治三ヶ月と診断された以上、警察も暴行障害事件として扱わない訳にはいかない、と渋った。
「彼女は自分の恋人です。単に民事上の事なので、警察は介入しないでほしい。」
全身に包帯を巻かれ、手足を固定されたままの凄まじい状態でありながらも、弘志は警察官に対して、凛とした目付きで声を発した。おそらくこのテの事案には不慣れであろう若い二人の警察官は、携帯で署と連絡を取ったりボールペンで頭をかいたり、自分達だけでは対応出来ないと、困っている様子だ。
「しかしねぇ前田さん、高木容疑者はあなたに暴行を加えたと認めているんですよ。」警察官はけげんそうに吐き捨てた。
「とにかく警察の介入は断わります。被害届けも出しません。今すぐ彼女を釈放してください。」
法学部に在学する弘志は、知っている限りの法律用語を並べ立ててそう言い放ち、二人の警察官はたじろいで顔をしかめた。


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