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【イムラヴァ】
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【イムラヴァ:二部】二章:鐘の音-15

「その体が清らかならば、悪魔の種など根付かんはずだ」教父は言った。賛同の声がうねるように広場の空に上っていく。

「でも……でも、仕方なかったのよ!」少女は群衆に助けを求めるように、アラン達の方を向いた。しかし、そこに並んでいたのは敵意と拒絶の表情だけだ。彼女は怯えきって、再び教父の方を向いた。「お願いです、教父様、私を死なせないで――私は本物の国教徒です。生まれた時からずっとそうでした。毎朝、毎晩お祈りをして――」

 彼女の言葉が終わるのを待たず、執行官から号令が発せられた。たいまつを持ったまま控えていた男が、ゆっくりと少女に近づく。

「そんな、お願いです、どうかお助け下さい、どうか!」

 一人の命が、百人の群衆の前で燃え尽きようとしていた。アランは、手の中の本をぎゅっと握った。何かしなくては。でも、体が動かない。猛烈な怒りが、心の中で渦を巻いている。荒々しい咆哮を上げ、少女をさらってここから逃げようと息巻く怒りを、燃えさかる炎に対する恐怖が取り囲んでいた。恐怖そのものが、冷たい炎であるかのように。荒ぶる怒りは、炎を飛び越えて飛び出すことができないでいた。そして、アランは身動きもできずそこに立っていた。

 その数秒間、アランは自分の無力を突きつけられた。自分の覚悟のなさを。

 王でなければ、民を救うことは出来ないのか?グリーアの言葉に、頭をもたげたそんな反発も、今は彼女をあざ笑っていた。「王であるか、王でないかなんて関係ないね。要はお前に、意気地がないのだ」と。

 アランは、恐怖と屈辱の炎に身を焼かれて立ち尽くした。

 そして、それでも尚、何かが、炎を消してくれるのを待っていた。聞き覚えのある、あの朗唱が聞こえるまで。

「かわいそうな、かわいそうなスプリングお嬢さん!いったい誰が、無実の彼女を助けてくれる?誰が可哀想な彼女を救ってくれる?貧しい民の見方になってくれるのは誰?」

 アランははっと顔を上げた。聞こえた声には、色鮮やかな舞台の上から聞こえる語り部の陽気さは無かった。広場を見おろす教会の屋根の上から落ちてきたそれは、はっきりと怒りを含んだ問いだった。広場の群集が、救世主の姿を捉える。どよめきがひろがり、やがて歓声に変わって行く。一陣の風が麦の穂をなびかせる様に、興奮が広場中を吹き渡った。

 これこそが彼の舞台なのだ。そして、群衆は彼の観客だった。観客は口々に言った。

「レナード!」

 しかし、アランだけはその合唱に加わらなかった。驚きがあまりに大きすぎて。

 あれは、そう。間違いない。

「レナード……!」

 狐氏族のシーだ!


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