投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

昏い森
【ファンタジー 恋愛小説】

昏い森の最初へ 昏い森 2 昏い森 4 昏い森の最後へ

昏い森-3





村の外れ、森が広がるその側に暁が生まれたときから住まう家がある。


また夜がきた―。
漆黒の闇を伴って。

誕生日の次の日、目を覚ますと既に暗夜はいなくなっていた。

肌を這った暗夜の唇の感触を暁はうっすらと思い出した。

暗夜と二人でいるときは余り感じなかったのに、一人の今日は森の気配が濃厚で、恐ろしくもある。

ざあっと風が強く吹いて、木々を揺らす音と、遠吠えする獣の鳴き声が低く聞こえてくる。


漂ってくる夜の闇に、暁は身を強ばらせ部屋の隅で気配を消して、ひたすらひっそりと朝がくるのを待った。
目をつむって、暗夜の黒い瞳を思い出す。


屋敷のごく近くで、鋭い獣の咆哮が聞こえた。

それは段々と大きくなって、暁に出てこいと呼んでいるようだった。


暁は恐ろしくて、両手で耳を押さえ、目をぎゅっと閉じる。

呪文のように、心の中で暗夜を繰返し呼んだ。



獣の声は止まなかった。



暁は観念したように、ふらりと立ち上がった。
やはり、自分の運命からは逃げられないのだ―。


暗夜は来ない。
どんなに愛しく思っても、暗夜ともう一緒にいることは出来ない。


暁は扉を開けた。


途端に冷たい夜気が飛び込んできて、薄い単を纏っただけの暁を凍えさせる。

背後に森を控えた外は、朔夜のせいもあって深い闇に包まれていた。


その夜のなかに、一点、場違いなほどの輝きを放つ異形の者がいた。
雄々しく、みなぎる力を秘めて覇者たる風格を森の全てへ向けて放っている。


銀糸のような毛並みは見事で、月を紡いで織ったように美しい。
だが左目から頬にかけて鋭い刀で一閃したような細長い傷が走り、片目を潰している。


大きな、狼だった。


ゆっくりと暁に近付くと、値踏みするよう、ぐるぐると彼女の廻りをまわり始めた。


暁は恐ろしくて、身を固くする。
やがて、満足したのか銀色の獣は一つ大きく頷いた。
その様子が酷く傲慢に、暁には映った。


昏い森の最初へ 昏い森 2 昏い森 4 昏い森の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前