投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

【イムラヴァ】
【ファンタジー その他小説】

【イムラヴァ】の最初へ 【イムラヴァ】 71 【イムラヴァ】 73 【イムラヴァ】の最後へ

【イムラヴァ:一部】十二章:アラスデア-4

 少女は進み続ける。運命の道筋を知らぬまま。足下に群れる羊歯の葉がそうするように、地面を覆い隠す古い落ち葉がそうするように、道は隠されている。彼女が辿るのは森の中の道無き道。その旅路は、長く険しい。

 傍らに馬を引き、傍らに鷲と獅子とがまじりあった伝説の巨獣を従え、その後ろを、故郷を捨てて兵士に追われる身のクラナドが歩く。

「ねえ、アラン。それは……なんていう動物?」ハーディは、飽くことない好奇心を満たそうと、城での生活や、アランの事について馬上から質問を続けていた。今彼が聞いたのは、アランの隣を悠然と歩く見慣れぬ獣についてだ。

「グリフィンじゃよ。エレンの王家の僕となる怪獣でもある」ハーディーを抱えるように、同じ鞍にまたがるロイドが言った。その口調はさりげなかったが、彼が初めてこの獣を――そしてそれがアランの傍らに誇らしげに立つのを――見た時には、顔が蒼白にさえなっていた。グリフィンとエレン王家の繋がりを見出すのは容易い。しかし、アランと王家の繋がりを追求されると厄介だ。まさか自分の育てていた卵が、グリフィンのものだったとは。なんとか、自分と王家の関係を悟られないようにしなくてはと、様々な方便が浮かんだが、どれも愚にもつかないものばかりだった。今は、素知らぬ顔をしておくのが一番の策だ。

「グリフィン」ハーディは、傍らで味わうように言った。「かっこいい」

 アランはうなずいて、新しい友の首を撫でてやった。満足げな低いうなり声は雷鳴のようで、なるほど伝説の魔物という感じだ。彼はアランの側を一時も離れることなく、旅の一行の会話を注意深く聞きながら黙って歩いている。クラナドたちは彼の様相におびえて、かなりの間隔を保っていた。しかし、彼が森の獣を狩って食べる姿を見ると、少しだけ距離を縮めて歩くようになった。人間を主食にするわけではないと理解してくれたようだ。ただ、初めのうち、彼が仲間に物欲しげな視線をくれていたことや、アランが「あの人達を食べるなよ」と釘を刺しておいたことは、知らせずにいた方が良いだろう。

 この獣のこと、この森のこと、この旅のこと……知りたいことはいろいろあったが、ロイドから今詳しく話を聞くのは酷だ。

 逃避行は、今日で二日目を迎えていた。怪我が一番重いのはロイドだ。アランは、傷の具合を確かめようと、そっと彼の腿に触れた。体温は高い。だが、傷が膿んだ時の甘ったるい臭いはしなかった。とは言え、そろそろどこかで休憩しなくてはならないだろう。歩いている者全員が無傷というわけでもないし、たとえ馬に乗っていても、それだけで体力を使ってしまう。兵隊が彼らの後を追ってきていないか確信が持てなかったので、昨日はほとんど休まずに歩くことになった。彼らの疲労は限界に達していて、ハーディも、ロイドと同じ馬の背でいつのまにか眠りに落ちていた。

「このあたりの森はとても古い」ロイドの声は小さかったが、アランにはよく聞こえた。

「見ただけでわかるんですか?」アランはクスリと笑った。「それとも、木の言葉がわかるとか」あり得る。ロイドを木にたとえるとしたら、きっと樹齢何百年の柳だ。

「そうだったらいいと思うがね、残念ながらわしの耳には語りかけてこない」彼はまじめにそう答え、周りの木々を示した。「ナナカマド、榛の木に樅、それにイチイ。どれも成長が遅く、長寿の木じゃ。森が生まれる時、最初に根付くのは寿命の短い木なのだ。寿命の短い木は多くの種を作り、早くに育ち、そして朽ちて行く。今度は枯れた木と、その木が肥やした土を苗床に、それよりも寿命の長い木が育つ。その繰り返しで、森は徐々に強くなってゆく」

「へえ」アランは感服してつぶやいた。よく周りを見れば、木々は確かに高く伸び、幹が太い。前に、森の中には普通の空間とは違う空気が流れているのだと感じたことがあったが、まさに彼女たちが歩いているのが、その空間だった。いや、彼女の近くに会った森よりも、ここの方がずっと深い。風も、光も、ここでは様子が全く違う。耳を傾ければ鳥たちが、遠くで、近くで、しきりに何かを話し合っていた。

 その時、アランがそばだてていた耳に、ありがたい音が聞こえてきた。


【イムラヴァ】の最初へ 【イムラヴァ】 71 【イムラヴァ】 73 【イムラヴァ】の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前