DOLLHOUSEU 4-2
脱衣所の扉を開けて顔を出すと、バスローブを着込んだリカちゃんが走り込んできた。
まるで、ぼっちゃんの車の音に気がついて出迎えるときのように。
だけど、バスローブから覗く手首と足首は痛々しい程に赤黒くなっていた。
上気したほほ。潤んだ瞳。
「ユリさん。よかった。死んじゃったかと思ったのっ」
「大丈夫。生きているわ」
リカちゃんの目は私の額の絆創膏を見つめていた。
また血が絆創膏にしみ出ているのかもしれない。
既に痛みというか、違和感がある。明日にはもっと腫れてくるに違いない。
「大丈夫。ほら、ちゃんとお話出来ているでしょ」
私は『大丈夫』を繰り返した。
それしか思いつかなかった。
「うん」
心配そうな顔で、でもうなずいてくれた。
「ぼっちゃんが助けてくれたのね」
私は話を反らすようにいった。そのつもりだった。
「…うん」
リカちゃんがうつむいて答えた。
私は了解した。間に合わなかったのだ。
「あ。でも、大丈夫。ご主人さまがきれいに洗ってくれた… から…」
顔を上げたリカちゃんは顔を赤らめてうつむいた。
「…うん。だから大丈夫…」
うつむいたままつぶやく。
私に話すべきことでないのに気がついたのだろう。自分の情事だ。普段なら話さない。
「わかったわ。もう、戻りなさい。私もきれいにするから。ね?」
私は笑った。
リカちゃんもそれを見て笑い返してくれた。
「うん」
そういうとリカちゃんは二階に戻っていった。