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【イムラヴァ】
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【イムラヴァ:一部】八章:クラナド-3

「大丈夫か?」話しかけると、少年は何度もうなずいた。アランはため息をついて、心配そうにのぞき込んでいた大男に彼を預けた。

「心配ない。ちゃんと生きているから。でもすぐにたき火に当たらせた方がいいな。風邪を引いてしまう」

 ボーデンはうなずいて立ち上がった。「ありがとう。どうかあんたも来てくれ。そのままじゃ凍えちまうし、きっと長が会いたがるだろう」

 アランはその誘いを断ろうかとも思ったが、どっちにしろ城へ帰る道を見失ってしまったし、このままの格好で森を歩き回ったりしたら、それこそ風邪を引く。アランは大男の後を付いて、来た道を戻って広場へ向かった。帰り道、ボーデンの肩に担がれていた少年は、少し元気を取り戻したようだった。ボーデンの肩からアランを見下ろすと、言った。

「ありがとう」

 アランは慇懃に答えた。「どういたしまして」すると、少年は尻尾をぱたぱたと振った。

「ボーデン、あの人、まるで物語の騎士みたいだね」ボーデンは鼻をならして言った。

「そんなら、お前はさしずめお姫様だな。まったく、水をくみに行って川に落ちるなんざ、男の風上にも置けねえや」



 広間に付くと、帰りの遅い二人を心配した者達にすぐさま取り囲まれだ。「いったいどこまで行ったんだ?」と、ウサギの顔をした小さな男がボーデンの腿のあたりを小突いた。

「いやなに、こいつが川に落ちちまったもんでな……」

「何、川だ?」彼はびしょ濡れのハーディと、同じくびしょ濡れのアランを見て、あっと声を上げた。

「僕の命の恩人さ!」ハーディーは興奮か、寒さか、その両方に震えながら、アランの手を握ってみんなの前に引き出した。寝支度の整った彼らの中には、眠っているものも、寝ようとしている者も居なかった。みんな、彼らを心配して起きていたのだ。広間には、五十人ほどがいたが、そのうちの半分は、ハーディのような獣の頭をした者達だった。ハーディは、彼らに向かって誇らしげにアランを紹介しようとした。

「こちらが……えっと、お兄さん、誰?」ほほえみながらも答えようとした時、さっき見た白髪の男が歩み出て、濡れたままのハーディを抱き上げた。

「まずは、お前の命の恩人に礼を言おう。話を聞くのはそれからで十分じゃ。また火をおこしてお前を乾かさなくてはならん。この悪戯小僧め、悪戯心まで一緒に乾いてしまえばいいのだがな」男は言い、仲間にいくつか指示を出した。

「あれ?グリーアは?」

 先ほどのたき火の後にかがんで火をおこしていたうさぎ顔の男に、ハーディーが聞いた。

「さあな、出かけたよ。またすぐ戻ってくるさ、いいからおとなしくしてろよ。今度こそ長に怒られるぞ」

 この脅し文句が効いたのか、ハーディーは口を閉ざして、おとなしくアランの隣に腰掛けた。

 おそらく、長というのが、あの白髪の男のことなのだろう。火が付くまでの間、アランはたき火跡のそばに座って、奇妙な顔ぶれを観察した。普通の人間ももちろん居る。しかし、犬顔、うさぎ顔の他にも、狐や熊、アランが知らないような獣の顔をした者も沢山いた。男が三十人以上居るのに対して、女は極端に少ない。それも、ほとんど誰かの女房といった感じだ。アランが驚いたのは、人間の顔をした女と、獣の顔の男との夫婦が居るらしいことだった。こんな奇妙な組み合わせがあるか?しかし、彼ら自身はそのことを奇妙だとは思っていない。それは明らかだ。アランはぼーっとした頭で、この世には一体いくつの常識があるのだろうと思った。 

 狐の顔をした女が、自分の荷物の中から、堅パンとチーズを取り出して、アランに勧めてくれた。アランは礼を言って、パンにかじりついた。かすかにしょっぱい味が口の中に広がってからようやく、自分がどれほど空腹だったか思い出した。

 うさぎ顔の男は、相変わらずアランの隣で火をおこしている。アランからすれば、見慣れない風貌なのだが、彼からすると、アランはさほど物珍しい客でもないようだ。


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