投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『Scars 上』
【その他 その他小説】

『Scars 上』の最初へ 『Scars 上』 31 『Scars 上』 33 『Scars 上』の最後へ

『Scars 上』-32

それは、雨の降りしきる中、始まった。
時刻は、午後十七時過ぎ。
学校や会社から帰宅する人々で賑わう夕方の霧浜駅前。
普段ならば、赤い夕焼けの差す時間なのに、今日は雨のせいでどんよりと暗い。
霧浜駅周辺は、BMTの支配するエリアだった。
従って、駅周辺にうようよといる不良たちは皆BMTのメンバー。
それ以外の不良たちは駅前で目立つことは出来ない。
そんな中を、桜花学園の学ランを着た集団が歩いていた。
人数は十人ほど。
雨の中、傘も差さずに黙々と霧浜駅前を練り歩いている。
異様な集団だった。
皆が皆、目を血走らせ、剣呑な雰囲気を漂わせている。
張り詰めすぎて、爆発寸前の集団。
不意に現れた外敵の存在に、BMTのメンバー達に動揺が走る。
ガンつけの応酬。
鋭い視線のやり取りを経て、とあるBMTのメンバーが桜花の学ラン達に声をかけた。
「おい、ここがドコだかわかってんのか?」
口ひげを生やして、サイズの合わないダボダボの服を着た男が、桜花の集団に歩み寄っていく。
通りに面したゲームセンターの屋根の下で、雨宿りをして煙草を吸っていた男だった。
男の全身はみるみるうちに雨に濡れていく。
「……」
そんな男の問いかけに、桜花軍団は何も答えずにメインストリートを進もうとした。
「無視してんじゃねえ――」
額に青筋を浮かべた男が、桜花の一人の肩に手をかけた。
その瞬間。
「ッらああああああ!」
突然、桜花の一人が、口ひげを生やしたBMTのメンバーを殴り飛ばした。
目を血走らせ、肩で息をつく桜花の学ラン。
まるで、何かに脅されているかのような態度。
「きゃああああ!」
近くを歩いていた女子高生が悲鳴を上げた。
「何してんだ、コラァ!」
急に殴られた仲間を見て、次々に怒声を上げるBMTのメンバー。
それを迎え撃つように、桜花学園の面々は構える。
突然、夕方の街中で起こった乱闘騒ぎに、街の人々は大混乱に陥った。
「ぶっ殺してやらあ!」
「やんのか、コラァ!」
阿鼻叫喚。
慌てふためいて逃げ出す人々を尻目に、BMTと桜花学園は激しいぶつかり合いを開始した。
それは、霧浜史上最悪の一日が始まったことを意味していた。
何よりも、霧浜の人々にとって最悪だったのは、乱闘が始まったのは一箇所だけではなかった事だった。

同時刻。
霧浜駅前交番に勤務する巡査長は、呆然と立ち尽くしていた。
高校生が喧嘩をしている。
初めにその通報を受けたが約十分前。
それから立て続けに、同様の通報が二桁近く。
どれも、別々の場所だった。
「……どういうことだ」
霧浜駅周辺で、高校生の乱闘騒ぎが同時多発的に起きている。
とても交番に勤務する数人の警察官だけでは追いつかない。
必死に、自分を落ち着かせながら、巡査長は応援を要請する事にした。
しかし。
上から返ってきた答えは、しばし待機せよ、と一言だけだった。
「……どういうことなんだ」
不穏な気配を放つ霧浜の街を眺めながら、巡査長は息を飲んだ。
自分の知らないところで、何かが起きている。
街の治安を預かるはずの警察官は、ただ、そんな予感に身を強張らせた。


『Scars 上』の最初へ 『Scars 上』 31 『Scars 上』 33 『Scars 上』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前