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『Scars 上』
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『Scars 上』-27

広い会議室。
各部署のリーダークラスの人間が、今後の方針を話し合うために集まっている。
悪名高い霧浜市の治安強化方針を。
「……結局、資金的にも、人員的にも限界はあるのですよ」
会議の進行役を勤める副署長は重々しく言った。
「全てのことを行おうとしても、コストはかかる」
はっきり言って、この霧浜市には悪が溢れかえっている。
海外の都市にも匹敵する犯罪の多さ。
どんなに警察が取り締まろうとしても、それをあざ笑うかのように、犯罪件数は右肩上がりだった。
「だったら、どこかに集中すればよい」
会議室の最も奥に座る男が言った。
警察署長の席に座る男は長年、この町を見続けてきた。
犯罪には流れのようなものがある。
重犯罪から軽犯罪へと流れる犯罪の川。
その源流を断ってしまえば、この犯罪の川は枯渇する。
この街に住む人々の全てが悪なのではない。
たった一握りの人間が悪を垂れ流し続けているのだ。
「全勢力を上げて、この街の悪の根源を立つ」
会議室に集まる全ての人間を見据えて、署長は言った。
「それは、街にたむろする不良達のことですかな?」
そう言ったのは生活安全部少年課の課長だった。
薄い頭皮に土色の顔をした少年課長は、酷く疲れて見える。
「あのガキどもは、ただ数が多いだけだ」
署長にとって、街の不良たちなど眼中にはなかった。
更なる根源。
「暴力団だよ、暴力団」
「なっ……」
その言葉に、会議室が色めき立つ。
霧浜市を中心に展開する、広域暴力団。
関東青円会。
それが諸悪の根源の名前だった。
署長の言葉を聞いて、会議に出席する何人かは額に汗を浮かべていた。
昔から、青円会と霧浜警察は馴れ合いを続けてきた。
街の表と裏で暗黙の棲み分けを行ってきたのだ。
もちろん、薄汚い賄賂に塗れて。
こんなことだから、街が腐っていく。
署長は力を込めて、テーブルを叩いた。
「たった今より、我が書は全力を挙げて関東青円会を根絶やしにする!」
それは署長の夢だった。
大学を出て、警察官になってから、ずっと汚職に塗れた上司達を見てきた。
辛酸を舐める思いで。
だが、自分が頂点に立った今なら、かつての過ちを正すことが出来る。
このご時勢、未だに暴力団に支配される街など存在してはならないのだ。
ゴミは町から根絶やしにしてやる。
署長は、血が出そうなほど、拳を握り締めながら、部下達に号令を下した。
暴力団掃討作戦を。


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