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愛を知らない役者
【ファンタジー 恋愛小説】

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愛を知らない役者 (中編)-9

河原に膝を付き、水鏡にして覗き込む。

「…―ダニエル様?」

水が揺らめいて頭に甦るのは、漆黒の瞳の若者。
妖しい月と、熱いくちびる。
自分の体は、馬上の男の胸に、川のほとりでは、しなやかな腕に、包まれたことがある。
そして、ぶるり、と震えて、カラダがあの感触を思い出した。

――強烈な快感。

なんだっけ、あれは…そう、キスの後、私の首に、ダニエル様が顔を埋めて……
…―っ!?
私、血を吸われたの?
そんな、まさか…だって私、石になっていない。
あとは…なんだっけ、ミイラのようになるとか…死ぬとか…まだ私、生きている。
あの後は…どうなった?
私、体がぐったりとして、眠くなってしまって…。
目が覚めたのは……あぁ、そうだ、母さん、父さん…まだ5歳だった私の可愛い弟。
みんな突然いなくなってしまって、私は村を去ることになって、あの夜のことは忘れていたんだ。

ダニエル様は…ヴァンパイアだったの?
いつか村で出会ったおじさんが言っていたのは…そうだ、"永久の伴侶"。
でもあのヴァンパイアは、私の元を去っていった。
じゃあ私は、"永久の伴侶"じゃなかったんだ。

少しホッとしたけれど…まだ何か引っ掛かる。
前を流れる水…そう、この喉の渇き。
この前の晩も、それで起きて、夜中に川で水を…。
…飲もうとした時に、見たんだ―。
私の歯。
あれは……牙?
今はなんの違和感も無い。
でも、さっき感じた引っ掛かり。
あれはもしかして…。

ダニエル様の漆黒の瞳を思い出す。
夜のとばりの中、美しい顔で私を見つめられて、突然キスをくださった。
私は…はしたなくも歓喜に震えて、動けなかったんだ。
そして、そのままダニエル様は、私の血を…。
あ、大変、私の歯が伸びている…!
こんな明るい太陽の下で、ヴァンパイアとして覚醒してしまう。
ダニエル様を思い出すと、体が勝手に疼いて…変化してしまうらしい。


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