愛を知らない役者 (中編)-3
――約一年後。
「ねぇ、ちょいと。
そこのお阿仁ぃさん、あたしんトコ、寄っておいでよ?
今夜は、甘い夢を見られるよ…」
「ねぇ、旦那、今日は…泊まっていってくれるんだろ?
あたい、ずぅっと待っていたんよ?」
「あちきを選んでおくれやんすか…?
あんさんに尽くしんす…」
様々な階級、様々な美しさの蝶々達が、俺にまとわりつく。
きらびやかな衣服から伸びる腕をすり抜けながら、今日の宿を決める。
数日前、隣町から今のこの街へ入ったが、最近はずっと、ラテン気質な女ばかりだった。
基本的には、料理と同じで、その土地の"味"を楽しむのが俺の流儀だが、さすがに胸焼けがしてきた。
ここまで南へ下ると、街は人種のるつぼとなっている。
今日の気分は、そうだな、あっさりとした東の女を探そう。
水のような見た目を持つ、辛い酒を、水のような印象の女に酌をさせる。
まっすぐな漆黒の髪をさらさらと流しながら、白魚の指で、俺に給仕をしてくれた。
名前は、おりょう、というらしい。
涼しい、という意味を持つ、と教えてくれた。
彼女の"味"は、するすると喉を滑る、爽やかな赤だった。
荒い息を吐きながら、肌を桃色に染めた女の首筋に、"消し"の紋を描くと、安心したかのように眠りに落ちたので、そのまま遣り手婆にいとまを告げて、立ち去ることにした。
こう永く生きると、夜露なぞというものは、独りでしのぐ方が、朝の目覚めが良いと分かっているので、俺はあまり、売春宿にそのまま泊まることはなかった。