投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

愛を知らない役者
【ファンタジー 恋愛小説】

愛を知らない役者の最初へ 愛を知らない役者 15 愛を知らない役者 17 愛を知らない役者の最後へ

愛を知らない役者 (中編)-11

見世の蝶々達を、嬢、と呼ぶその遣り手婆は、後から教えてくれた。
―「あの時の嬢はね、あたしにゃただの村娘には見えなかった。
哀しみだけではない、何か別の、黒く強いものを持っている、ってね。
だから、聞いてみたのさ」


私はそう言われて、あの時、おもむろに服を脱ぐと、手のひらに唾を吐きかけ、自分の首筋を拭ったのだ。
宿に入る前に施した肌色の練り物が落ちる。
艷やかな女将が、艷やかにハッとした。


私の名前は、黒ルビーになった。
そして、蝶々を売る時に付ける通り名は、『あなたの"永久の伴侶"』だった。
いかがわしい技術を残らず教え込まれて、私はサナギから孵化をはじめた。
やっと、"蝶々の黒ルビー"として、見世に出た時は、私が村を出てから2年近くが経っていた。
それからまた2年がすぎて。
私も18歳になった。
もちろん、本物のヴァンパイアであることは隠したままで、"南の港街の娼婦"として生きている。

喉の渇きを覚えることは、あまり無い。
なにしろ、毎晩私のことを、男達は求め、食らい、しゃぶりつくすのだから、あまりダニエル様を思い出す余裕は無いのだ。
何人かは、私を気に入って、既に自分の所有物であるかのような振る舞いをしている輩もいる。
…でも本当は、私はダニエル様を、忘れられなかった。
あの方が、ヴァンパイアかどうかは二の次、私はあの日、村長の執務室で逆光に浮かんだお姿を見た瞬間に、恋に落ちていたのだから。
今なら分かる。
これが、一生忘れられない恋心であること、そして一生叶わない想いであること。
でもいいの。
あの晩、確かにダニエル様は、私を愛してくださったのだから。
あの月の光の下で起きたことは、忌まわしい記憶なんかじゃない、私にとっては、宝物のような睦事の思い出。

――そう、確かに、あの瞬間だけは、私達は愛し合っていたんだ。
今の私が、独りぼっちだとしても。



――――――続く


愛を知らない役者の最初へ 愛を知らない役者 15 愛を知らない役者 17 愛を知らない役者の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前