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愛を知らない役者
【ファンタジー 恋愛小説】

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愛を知らない役者 (前編)-4

小川の縁に膝をついたアンジェリカの肩へ手を置くと、びく、と震えて振り返る。
そこへ、キス。
軽くくちびるを合わせてすぐ、

「小川の水を飲んでいたの?
冷たくて甘い味がする」

囁いて、牙の間から舌を伸ばして、下くちびるをぺろっ。
次は、べろり、とひとなめ。
そのままくちびるを割り開き、唾液を交換するような深いキスを。
はじめは、そっと肩にまわしていた腕を腰にやり、互いの下半身を擦り寄せるようにして密着させる。
もう一方の手で、すべらかな頬を撫ぜ、そのまま細い首を愛撫してやる。
そして、気付かれないようにして、襟元を軽くくつろげた。

「…んっ、―ふぅんっ…ぁむ…」
甘いさえずりが2度3度と上がったところで、銀の糸を渡すように心掛けて、くちびるを離す。

見つめ合う2人。
ヴァンパイアの瞳は、また4色に瞬く。
少女は、とろりとした目で見上げることしかできない。

「…ふふ、動けなくなってしまっているじゃないか。
溶ろかされたか?
何しろ、俺の唾液には、媚薬効果があるらしいからね」


そして少女は、抵抗しないままに、生き血を吸われることになる。
もう充分に育った牙を全面に押し出し、カッと口を開いたヴァンパイアが、アンジェリカの首に噛みつく。

「―はぁぅんっ…!」

少女が、生まれて初めての矯声をあげる羽目になったのだ。
そのまま、ギッ、と牙を体内でずらされ、またたく間に深紅の液体が溢れ出す。
ヴァンパイアが、一滴も漏らすまいと、長く吸い込む。
…じゅるじゅるっ、くぷ、くぷぷ―。
自分の耳元で聞こえる濡れた音。

ぞぞぞっ、ずずっ…
「やっ、ふぁんっ、…あ、あぁっ…!」

体内の芯を抜かれるかのような感覚に、声を抑えることができない。


「…旨い、旨いよ、アンジェリカ…。
君はまだ、初潮を迎えたばかりのバージンだ、違うかい?
今が、一番おいしい時分じゃないか…」
うわ言のように感想を呻く俺。

あらかた満足するまで飲んでも、ふつ、と湧き上がるルビーを、じゅっ、と何度も吸ってしまう。
アンジェリカは、その刺激に都度、
「―ひぁ…っ」
と軽い悲鳴を漏らす。

口を離して、つつ…、と垂れた緋色の線を、ぺろぺろと惜しむかのように舐め取る。
飢えた犬のように。

「…あ…も、ダ…メ、んくぅ…」
彼女が、もう、途切れ途切れの吐息しか出せなくなった頃。
最後にキツく、きゅ、と綴じるように吸い上げ、血を止めた。

熱くほてった互いの体が離れぬよう、くたっとした少女を掻き抱き、首筋へ指を当てる。
すすっと指を滑らせて、"消し"の紋を描いた。
傷はふさがり、アザになったが、朝までには消える。
これで、大概のヴァンパイアの行為は揉み消せる。
このくらい吸われても死なないし、ましてや、石になんてなりゃしない。


「御馳走様。」

久しぶりの旨い赤水だったので、心からの礼を言い、馬に乗って俺は立ち去った。
今回も、"愛を飲む"ことができなかった切なさを、頭の隅に追いやりながら。


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