愛を知らない役者 (前編)-2
「こんにちは、村はずれのアンジェリカです。
差し入れ物を持って来ました」
勝手口からおとないを告げると、女中頭が顔を出した。
「あぁ、待っていたよ、アンジェリカ。
村長様が、お前に頼み事があるそうだから、このままはいって行って、執務室に行っておくれでないかい?」
「頼み事?…何かしら?
では、お邪魔致します」
そして、アンジェリカは、この"俺"、ダニエルに出会うのだ。
―コンコンコン…「失礼致します」
――逆光。
執事のような雰囲気の村長の隣に、どこかの主であることを感じさせるオーラの若者。
ふわりとした長めの黒髪に、線は細いが野性的な雰囲気を持つ服装。
茶の革の、帽子、ベスト、パンツ。
軽く胸元をはだけた紺のシャツに、赤いスカーフ、帽子にも赤い布をひと巻き。
ゴツい乗馬靴。
村長が手を挙げた。
「やぁ、アンジェリカ、来たね。
ゴラン卿殿、こちらが先程お話したアンジェリカです。
アンジェリカ、こちらの方は、ダニエル・…え〜……ゴラン卿だ。
本日、お前には食事の際の給仕をしてもらおうと思うんだが、良いかね?」
拒めるわけはない、これは、既に決まったこと。
「はい、心からお仕え致します。
よろしくお願い致します、ゴラン卿様」
「よろしく、アンジェリカ。
俺は、ダニエル・カーシャ・ルカ三世・キャトル・ゴランだ。
ダニエル、でいいよ」
ここで、目をぱちくりさせるアンジェリカに、くすりと笑いを漏らしながら応えるのだ。
これが、俺達の出会い。