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短編集
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短編集-3

「太陽をあなたと同じくらい」

太陽が無責任に今日の終わりを告げるように沈むので、放たれた残り火は仕方なく行き場を求めて私の長い髪や彼の横顔に教室の机、椅子、誰かのラクガキの残った黒板、窓際から見える町並み、少なくとも私の見える範囲全てを赤く染めていた。
「太陽って、罪だと思わないか?」、と彼が器用に指の間でペンを回しながら、不意にそう言った。
「太陽が罪?」と私は聞いた。
「そう。毎朝毎朝勝手に昇って僕達を起こして、学校や仕事に行かせて、夕方にはまた勝手に沈んで、夜には僕達から隠れて、その間に僕らの今日を強引に昨日にするんだ。それって罪な事だと思わないか?」
彼は私ではなく沈みかけの太陽を見ながら忌々しそうな瞳でそう言った。
反論しようと思えばもちろん出来た、肯定しようと思えばそれだって出来た。けれど、彼の瞳には私が思った以上に強い憎しみに近い何かが宿っていて、私は何も言う事が出来ずにただ彼と同じように沈みかけた太陽を見つめた。そしてその太陽の下には生き物が居た。私達人間が造った建物があった。その全ては夕焼けの祝福を受けて赤く染まっていた。
私も確かに太陽は無責任だと思う。けれど、その太陽が別れ際に残していく赤色は、こんなにも美しい。少なくとも私がいつもは言わないような事を言わせる位には。
「あなたが言いたい事は分かるわ。けれど、私は太陽が好きよ」
「あんな身勝手な奴の事が?」
「ええ」と私は頷いた。そして彼の瞳を見ながら言った。「あなたと同じ位好き」
回していたペンを、彼はポトリと落とした。元々赤かった彼の顔が更に赤くなったのは、夕日のせいという事にしておこう。
彼はすぐにペンを取り上げた。そしてその場で「無罪」と書いた。


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