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コンビニ草紙
【理想の恋愛 恋愛小説】

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コンビニ草紙 第十五話-1

第十五話 酔惑


何が食べたいか聞かれたが、思考が上手く回らず曖昧な返事しかできなかったの
で彼に任せる事にした。

店を出る前に然り気無く彼に言われた一言が頭の中を廻っている。

―りょーこさんの方が綺麗すよ。―

男の人から誉められる事は社交辞令で良くあることだからあまり気にも留めないが、
気になっている人から誉められるのはお世辞でも嬉しい。
自分より綺麗な人から言われると少し複雑な気持ちがするけれど。
然り気無く誉めてくれたのは嬉しいが、あまりにも然り気無いから何だか疑って
しまう。

―軽い人なのではないかと。

そんなことは無いと思いたいし、彼が女遊びが好きなようには到底見えないから
戸惑ってしまう。

どうしてあんなこと言ったのかな。
他の女の人にも言っているのだろうか…。

「…りょーこさん、着きましたよ。」

前を歩いていた彼が突然足を止めた。

「え…ここですか…。」

目の前にはひっそりと古民家が一軒建っていた。
店の看板はなく、表札があるべき所に灯りが一つ灯っている。
カラカラと引き戸を開けると着物の女の人が玄関に立っていた。

「草士さん、久しぶりですねぇ。ようこそ。」

「ご無沙汰してます。お女将さん、相も変わらず元気そうで何よりす。」

「ありがとうね。あら、そちらのお綺麗な方は草士さんのお友達ですか。」

「はい。坂本さんです。」

「…こんばんは。坂本と申します。」

軽く会釈すると、女将さんが私に向かって微笑んだ。

「どうぞお部屋にご案内致します。お腹、空いていますでしょ。」

「そうなんす。もう空きすぎてさっきから腹の虫がずっと鳴いてます。」

「ふふふ、じゃあ、すぐ用意しますね。」


細い廊下を歩いていく。
外見よりも中は結構広く入り組んでいるので、
道順をちゃんと覚えていないと迷子になりそうだ。
一階の一番奥の部屋に通された。
襖を開けると、窓際に生けられた桜が目に入った。
背の高い桜の枝は天井まで届きそうな勢いだ。
部屋の中でお花見が出来そうな程生けてある。
家具は茶系で統一されていて、部屋の雰囲気は少しモダンな感じがする。
少し照明が落としてあるので、まるで月明かりの下にいるみたいだと思った。


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