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恋なんて知らない
【初恋 恋愛小説】

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恋してくれますか-8

今、先生、が私に…


そのとき下校時刻を知らせる放送が聞こえた。

予想以上に時間が経っていたことに多少の焦りを覚え、自分の鞄を探した。


…せ、先生と普通に話せるかな。


すぐそばにあった鞄を抱きしめて、カーテンの外の音に耳をすます。

「…はい、まだ少し微熱がありますが、だいぶ下がったようです。」

先生は誰かと電話をしているみたいだった。

「あぁ、じゃあこのまま帰しますね。職員室に寄らせた方が良いですか?」

電話の向こうから、女性の声が少しだけ聞こえる。

ちょっと心配そうなあの声は、きっと担任の山井先生だ。


…そうだ、今出て行けば、話さなくても大丈夫、かな?

余計なことしないうちに、早く、早く。


意を決してカーテンを開けようとしたとき、ベッドのパイプの足につまずいて、思い切り床に顔を打ち付けてしまった。

ばぁんっ、と大袈裟な音が響いて、情けなくなる。


半分カーテンから体が出た状態で顔を上げると、先生が電話を中断して驚いたようにこっちを見ていた。


わ、また見られちゃった。


「おい、大丈夫か?すごい音が、」

「だ、だいじょぶ、れす。」

保留ボタンに手を伸ばして立ち上がろうとする先生を見て、私は慌てて起き上がり、小さくお辞儀をしてばたばたと保健室を出た。


あぁ、なんで私ってこうなっちゃうのかな。


恥ずかしい、とつぶやきながら、小走りに下駄箱に向かった。

いつもと同じように、靴箱の周りを歩く。

いつもと同じように、上から二番目に"畑本"の文字を見つけ、扉に手を掛けた。

その手は、そこでぴたりと止まる。

回りの空気が妙に静かで、何かの香りがする。

片手で持っていた鞄を両手でぎゅっと抱きしめて、その場にしゃがみ込んだ。


---なんで、だろう…?


…さっき触れられた場所が、じんわりと熱くなってる。


耳の上のところに少しかかる前髪を、くしゃ、と柔らかく掴んだ。


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