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卒業
【家族 その他小説】

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卒業-1

「翔太―、シューズ洗ったの―?」
「ま―だ―」
「早く洗いなさい!」

毎週土曜日の朝、必ず我が家で聞こえる会話だ。

『小学生になったらシューズは自分で洗う』

そう決めたのは翔太の方なのに、自分から進んで洗ったのは一年生の一学期のほんの数回だけだった。
以来六年間、私は飽きもせず急かし続け、翔太は気のない返事を残してダルそうに取り掛かる。
そして本当に洗ったのかと疑いたくなるくらいのシューズの汚さに顔をしかめながら、結局私が洗い直すのだ。

まったく、小学校の廊下ってどうなってるの?
何で室内のくせにこんなに真っ黒になるの?
何で小六にもなってシューズの裏に粘土がこびりつくの!?

イライラしながら爪楊枝でシューズの溝に入り込んだ粘土を取り除いた。

サイズが変わっただけで幼稚園の頃と何も変わってない。
いつの間にか私の手のひらより遥かに大きくなったシューズを無言でゴシゴシ擦り続けた。


あんなだらしない子が中学校でやっていけるのかしら。

翔太が四月から通う事になる中学校は、四つの小学校区から生徒が集まる、全校生徒が千人を越えるマンモス校。
良い子もいれば当然悪い子もいる。

ちゃんと友達は作れるだろうか。
良い先生に当たるだろうか。

そんな心配をしながらふと思った。

小学校に入る時も同じ心配をした気がする…、それどころか幼稚園入園の時もだ。

「…ふっ」

笑ってしまう。
これじゃ私の方が成長してないみたいじゃないか。



ようやく片方のシューズを洗い終わった。

そう言えば、中学生になると室内履きはシューズから指定のスリッパに代わるらしい。
毎週末持ち帰る事も、当然洗う必要もないと近所の主婦友達から聞いた。

それはいい。

これで毎週末の翔太とのお決まりの掛け合いも終わる――…

「…」

来週は小学校の卒業式。
そうか、あのお決まりの掛け合いはさっきのが最後だったのか。

そう思うと、解放感より虚無感に包まれる。


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