DOLLHOUSE〜prototype〜-2
教室の扉が開いて、教生が入ってきた。
梶先生。下の名前は覚えてない。
可もなく不可もなく。そんな感じの先生だった。どちらかと言えば柔和な顔だち。
大概の教生は自信はなさげで、先生や生徒のダメだしをおそれて腰が引けている。
梶もそういった1人と思っていた。
その梶が万引のことはなにも言わず授業を受けろと言う。
俺たちは引きつった顔で梶を見た。
「そこに座って」
教室の一番前、中央の実習台を指さす。
僕らはしぶしぶ。イスに座る。
梶の後ろには女子が1人、続いて入ってきていた。
学校の制服を着ている。が、全く見覚えのない顔だった。
同級生ではないらしい。
真っ赤な顔でうつむいている。
「先生。何かいいたい事があるんだったらさっさと済ましてくれよ。なんだか気味が悪いんだよ」
たまらずユウが言った。
「別に?今日は居残り授業だっていっただろ」
「そうだけどー」
僕らは顔を見回した。
「では、生物やります」
「はあ…?」
拍子抜けしてしまう。何も言わない変わりに授業の練習台になれということだろうか?
教生だし?
ところが、次の一言に僕らは耳を疑った。
「女性の身体について、のお勉強です。」
「ええっ!」
僕らは一斉に席を立ってしまった。
梶と女子に視線を彷徨わせる。
女子はうつむいたままスカートの布を握っている。
梶は全然動じないで、女子の手を取った。
「先生、そういうのってセクハラとかパワハラっていううんじゃ…」
「万引きなんかより、よっぽどヤバイじゃん」
ケンもユウも梶にくってかかる。
「大丈夫だよ、これは精巧に出来た人形だからね。人体模型。理科室のリカちゃんだ。」
梶は悪びれもせず言い切った。
女子は梶の手のひらに手をのせて、うつむいたままでいる。
「人体模型ったらアレだろ、内蔵むき出しのヤツ!何が人形だよ、そいつ自分で歩いてるじゃんか。ありえねえよ」
「そうだよ!」
「何考えてんだよ!」
「…ただの授業だよ。座りなさい」
梶が静かに言った。
熱くなっているケンやユウとは対照的だ。
妙な迫力がある。
コレがあの教生の本性なのか?
「君は静かだね。高井くん」
「なんか、言えよ。セイ」
ケンは負け惜しみのように僕をけしかける。