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カコミライ
【大人 恋愛小説】

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カコミライ (3)狡い兄-4

 しばらくすると、兄は私の手から写真を回収し、バイトに行くからと鍵を置いて出掛けていった。
 今でもさまざまと思い出すことが出来る。
 Tシャツにジーパンと随分ラフな格好だったけれど、しっかりと背筋の伸びた姿はなんだか頼もしく見えて。もう兄も大人なんだと、改めてそんなことを思った。


 それが私が見た兄の最後の背中。


 兄がこの部屋に帰ってくることは二度となかった。

 交通事故。それが理由だ。

 連絡を受けてから、病院に着くまでの記憶は霧掛かったように曖昧で。ただ心臓の音が煩くて、いっそのこと止まってしまえばいいのに。そんなことを思ったのは覚えている。


 傷だらけの体。変色した服。そんな中、頑なに握り締めた手の中で、汚れることなく兄の掌に収められていた物があった。それは紛れもなく、二人の姿を収めたあの写真。

 事故後、兄の意識がどれくらい残っていたのかはわからない。それでも兄が選んだ最後は、最愛の人の写真を握りしめるという行為だった。

 精神的なものかは分からないけれど、私はそのまま風邪をひき、更にこじらせて寝込んでしまった。朦朧とした意識のまま、なんとか兄と最後の別れをすることは出来た。
 通夜葬式共に参列者と会うことはなかったけれど、その中には勿論美嘉さんもいただろう。


 それからしばらくして、兄の部屋を片付け始めたけれど、全く進める気になれなかった。その様子を見かねた母は私に期限を与えた。今はそのままでいいから一年経ったら、兄の部屋を引き払おう、と。
 その約束は未だ守られていないけれど。


 それからいやでも季節は巡る。一周忌の少し前、夏の訪れを予感させる澄んだ青空が心地よい日。私は見覚えのある顔を街中で見かけた。
 スーツ姿の若い男女が連れ添って歩いている。ただの同僚であればいいと思うけれど、二人の間にはそれ以上の空気が流れていた。あの写真と同じように。
 ただ違うのは、横にいる相手が違うだけのこと。

 女の人が笑った。
 兄が宝物のように触れていた、あの写真と同じ笑顔で。

―――美嘉さん。


 ずっと愛していてとは言わない。いや言えるわけがない。寧ろ前に進んで下さい。父や母は美嘉さんにそう告げただろう。私だって、そう思っていた。

 けれど、その光景を見た私の胸に生まれた感情は言い表せない深い悲しみだった。


 兄はあなたを思いながら最後の眠りについたというのに。
 大切な彼女だと語る兄の、それまでに聞いたことのない弾んだ声が忘れられない。

 一カ月後の夜。私は繁華街の近くである人を見かけた。背の高い。明るい髪。
 ああ、あの人は兄の彼女と一緒にいた人。


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