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カコミライ
【大人 恋愛小説】

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カコミライ (1)やな女-2

「じゃあね。これが最後になるといいね」

 私の言葉に海は小さく微笑む。いつもの挨拶。いつものやり取り。

「うん、じゃあ」

 玄関の扉が閉まり、スチール製のドアが海の後ろ姿を隠してしまった。
 部屋に戻れば、暖房が冷えた頬に温もりを取り戻してくれる。

 はじめてこのやり取りをした時とは大違い。ぼんやりとそんなことを思う。
 あの時は、玄関の扉を開けると夏の生ぬるい風が頬を撫でて、部屋には冷房が効いていた筈だ。いつの間にか、季節は夏から冬になってしまった。

 半年。
 こんな関係が続いて半年だ。「もう」なのか「まだ」なのかは分からないけれど、このやりとりもすっかり慣れてしまった私がいる。

 私達は‘またね’とは決して口にしない。
 それは、暗黙の了解みたいなもので、私達の関係を自覚させる約束事でもある。





 海と初めて会話を交わしたのは半年前の事。
 騒々しい大衆居酒屋のカウンター席で、酔っ払った海に私が声を掛けたのがきっかけだった。

 半年前の海は、今より少し髪が短いくらいで、今とそんなに変わらない。
 スラリと伸びた手足も。見た目は薄っぺらな癖に脱ぐと意外に逞しい躯も。黙っていれば凛々しいのに、笑うとくしゃくしゃになる人懐っこい笑顔も。何にも変わらない。

 泥酔して足元も覚束ない海は、急に話しかけてきた私にあっという間に打ち解けた。それは酔っているからでもあっただろうし、もとより海の明るい性格のお陰でもあると思う。

 呂律も回らない状態で海は色々と、いや、ボロボロと喋ってくれた。


 内容は、全部海の大好きな彼女の話。

 きっかけは、入社した職場で出会った同期の彼女に海が一目惚れ。
 当時の彼女は付き合っていた人を亡くしていて、悲しみの縁に立っていた彼女は全然相手にしてくれなかったという。

 けれど、海は本当に彼女が大好きで、大好きで。必死なアプローチと、決死のアタックでやっと彼女と付き合うことが出来た。

 その時のことを語る海は、蕩けるように頬を弛ませて幸せそうな表情を浮かべていた。


『でもさ』と、続きを語り出した海の笑顔に影が落ちる。
 清いお付き合い期間を終えて、一歩踏み出した夜。海の泥酔の原因である出来事があった。

 極度の緊張からか、海は彼女を抱くことが出来なかったのだ。

 その一件から何度試しても、海と彼女は繋がることが出来なかった。すっかり落ち込んだ海に、彼女は大丈夫だよと言ってくれるものの、男としての自信はとっくにすっからかん。以降キスをするでも、手を繋ぐでも、デートをするでも、海は不安に襲われた。


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