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【推理 推理小説】

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4th_Story〜手紙と2筋の涙〜-6

3.暗号(その2)

 月白公園は、その存在を知らない人が見れば、単なる空き地としか思わないような、そんな小さな公園である。むしろ、公園と呼ぶ事に違和感を得る程だ。入り口には、月白公園という文字が書かれた木製の看板が立っているが、その文字も擦れており、時間の流れを感じさせる。看板の横を通れば公園内なのだが、そこにあるのは、土や石が入り混じった砂場と、梯子が壊れ坂には穴が開いている、既に原型を留めていない滑り台だけだった。
 自転車を持っておらず、移動手段が自らの足しかない里紅達は、ここまで15分程かけて走ってきたが、公園を目の前にして途方に暮れた。一体この公園のどこに犯人がいるというのか。中を見回しても、人っ子1人も無い。
「くそっ、どうなってるんだ?」
 荒い呼吸を繰り返し、里紅が呟いた。騙されたのか?
「これ見て」
 そう言って黄依は、月白公園と書かれた看板の裏を指差す。そこにはガムテープが貼られていた。木の看板に、茶色のガムテープが保護色になっていた様だ。
「良く見つけたな。良く残ってたって言ったほうが良いか」
「この公園は誰も来ないからね」
 ガムテープを剥がす。まだ粘着力が残っている事から、貼られて間もない事が分かる。ガムテープの下からは、また封筒が出てきた。差出人の所には、Χという文字。中を見ると、手紙が入っている。
「なにこれ……」
 その手紙は赤かった。おそらく赤い紙を使用して作られたのだろうが、その赤さは、不安感と不快感を覚えさせる。
「……どうやら、まだ返してくれないみたい」
「え?」
「ほら」
 黄依の持っていた手紙には、また暗号が書かれていた。この暗号が、次に行く場所を指し示しているという訳だ。
「PQTVJGCUV」
「それが暗号?」
「らしいね。あ、待って」
 手紙を見ていた黄依は、その後ろを捲る。そこには、アルファベットのHの上に棒を1本足した様な記号が、2つ書かれていた。
「なんか見たことあるな、それ」
 その記号を見て里紅が言った。
「うん」
 なんだっけ、と続ける黄依。しばらくそうして唸っていた里紅が、声を弾ませる。
「あ、シーザー暗号だ」
「シーザー暗号?」
「ああ、シフト暗号とも言ったりするんだけど」
 と、里紅は手紙の表を向ける。
「あ、そっち」
「うん。アルファベットをある文字数だけシフトさせるんだ。この場合だと、多分記号の数だけ、つまり2つ分シフトさせれば――」
 少しの間考えて。
「あ、ほら、2つ分前に動かせば、PがN、QがO、続けると」
「N、O、R、T、H、E、A、S、T、……北東?」
「ああ」
 続けて手紙の裏を向ける。
「んで、この記号は、神社だよ、地図記号の」
「そういえば。赤い色も鳥居を示してたって訳ね。つまり、ここから北東の神社に行けって事」
「だな」
 頷いて、ここから見て北東に位置する神社、皐神社へと急ぐ事にする。
 月白公園から皐神社までは、走って15分の距離がある。神社につく頃には、里紅の家を出発してからおよそ30分が経つ計算だ。蒼が誘拐されてから30分。親友を助ける為に奔走した彼らにとってあっという間に過ぎたその時間だったが、それは犯人も同じかは分からない。もしかしたら既に――という可能性もある。蒼の無事を祈りつつ、里紅達は皐神社への道を駆ける。


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