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【推理 推理小説】

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4th_Story〜手紙と2筋の涙〜-4

 それから2ヶ月後が経ち、日増しに春めいてきた6月の事。里紅、黄依、蒼の3人は、それはもうすっかりと仲良くなっていた。授業の合間や昼休みの時間に集まって話す時は勿論、それこそ学校から帰る時も、3人一緒の事がほとんどだった。
 先日も、黄依と蒼が休み時間に、なぜかは分からないが小麦粉と片栗粉の違いについて話していた。結局は料理への使い方が違うという事に落ち着いたらしいが、その間、里紅は話にまぜてもらえなかった。黄依曰く「邪魔」。蒼曰く「いま黄依ちゃんと話してるの」。どうやら仲良くなったのは黄依と蒼の2人だけだった様だ。因みに里紅は、2人の隣でふて腐れていた。
 それより問題な点が1つ。それは、蒼から黄依へのラブコールが激しすぎる事だ。「鞄持つよ!」から始まり、「お弁当作ってきたよ!」、果てには「キスしたい!」。誰が見たって、背景が白い花で埋め尽くされている。一方の黄依は、それを良い事に鞄を持たせ、弁当を作らせていた。流石に越えてはいけない一線を越えてはいなかったが。勿論、里紅に隠れて2人でよからぬ事をしている可能性もある。物事は知らない所で進んでいくものだ。
 ゴールデンウィークには、黄依の家で、お泊り会なるものを行った。屡兎は、自身の通っている大学で泊り込みの作業をしているらしく、その日は丁度いなかった。黄依とその両親、里紅と蒼。黄依家は、いつもより少しだけ賑やかになった。夜には、里紅と黄依と蒼の3人で川の字に並び、布団で寝るという、お泊り会の醍醐味な企画もあった。しかし、黄依と蒼が2人だけで話してばかりで、全く相手にされなかった里紅は、布団に就いて早々に寝てしまった。隣で何があったのかは知らない。ただ会話をしていただけのはずだ。それ以上は何も無かったと信じたい。

 その日の学校帰りにも、蒼と黄依は里紅を除け者にしてずっと話をしていた。そんなに話す事があるのかと不思議に思う程の話しっぷりに、里紅は少し引いていた。と共に少し落ち込んでいた。
 結局、蒼が別れるまで里紅は邪魔者扱いされていた。因みに蒼の別れの言葉は「さようなら」と「けっ」。どっちの言葉がどっちに宛てられたのかが丸分かりである。
 それから5分ほど歩いて、里紅の家に着いた。そこからまた5分ほど歩けば、今度は黄依の家に着く。いつもならばそこで別れるのだが、その日は違った。
 黄依の携帯電話から、着信音が鳴ったのだ。
 その携帯は安全の為にと親に持たされていた物だが、実際は殆ど使っておらず、登録されている番号も、里紅と黄依、蒼の家電の番号だけだった。だが、携帯電話の画面に表示されているのは、そのどれでも無い、「非通知」という文字だった。
 そのことを訝しがりながらも、黄依は通話ボタンを押した。
「もしもし」
 遥か昔から存在し、今も健在している決まり文句を言って、相手の言葉を待つ。
『……朝月里紅様と稲荷黄依様ですね?』
「え?」
 電話相手のその声は、変声機を通した様な歪さを有していた。確かに電話を通した声というものは、実際に聞く声とは多少なりとも異なる。だが、その範疇を超えた異常さが、その声にはあった。しかし、その口調は、丁寧そのものである。
 その違和感に黄依が口走った言葉は、里紅に異変を気付かせた。
「どうした?」
「えっと」
 黄依は携帯のスピーカーボタンを押した。これで、里紅にも相手の話す声が聞こえる。
『朝月里紅様と稲荷黄依様ですね?』
 再び発せられたその声と言葉に、里紅が戸惑いつつも「はい」と答えた。
 そして、電話の相手は言い放った。
 その言葉が、この事件の始まりを告げる合図となる。

『僭越ながら、たった今、海晴蒼様を誘拐させて頂きました』


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