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リバーシブル・ライフ
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リバーシブル・ライフ-5

数回の公判の合間には、真田の思惑通りにマスコミが騒ぎ立てた。
悲劇のヒーローのように彼を扱い、民衆の同情を誘った。
真田は、かつて正義を求め、今はそれを遠ざけている。
真実を見つける場が、裁判所でないとしたら。
真田は自嘲する。それは、どこにも無いのかもしれない。
こんな不条理な世の中だ。
だから春樹君は、本当に秋人君に救われたのかもしれない。
俺を殺せ、と。
この闇から解き放て、と。
きっと渇望していた。
それは真実に違いない。
真田は自分に言い聞かせた。

― 最終判決の日。
秋人の前に懐かしい顔が現れた。
「どうして、ここに来た?」その顔に告げる。
「罪は等しく、私にもあるから」彼女は言った。
「ハルから逃げた私も・・」
「違うよ。君は偽物だったんだ。僕たちとは違うんだ」
その言葉は前にも言った。
「でも」何かを言いかける彼女を制して秋人は続けた。
「今回のは、僕の独断だ。君には全く関係がないよ」
断言して、裁判所に向かう。
「でも」足音に掻き消されるほどの声が、背後で繰り返された。
三人で笑いあう日は、もう来ない。
ただ、この先、何度夢に見るのだろう。
続くはずだった幸せな日々に、うなされるのだろう。

松本秋人被告人は、判決を言い渡されようとしている。
裁判長は言った。
「今回の事件に関して、あなたは黙秘を続けました。最後に何か言い残すことはありますか?」
もう既に、判決は決まっていた。
十名の一般裁判員が結論を出した後だ。
何を言おうとも変わることのない二文字は存在する。
秋人は言った。
「あの日、夢を見たんです。僕がいて、ハルがいて、ナツがいて、笑いながら、じゃれあいながら、続いていく未来です。何てことのない日常です」
「それが何か事件と関係が?」
「いえ、ただそれだけです」
秋人は目を閉じた。
裁判長は、一呼吸を置き、それでは判決を述べます、と告げた。


(真実)
秋人は面会の断りを入れず、その病室に入った。
ハルは、いつものように天井を見つめていた。
僅かに開かれた窓から、肌寒い風が迷い込み、僕はひとつ身震いをする。
揺れたカーテンの隙間からは丸い金色が見え隠れしている。
月明かりは、彼の顔を照らし、涙を流していることに気付いた。
感覚は、もう無いという。
それなのに感情だけは、残されてしまったという。
残酷な、現実。
解き放つのは、僕の役目なのだろう。
ハルは、ゆっくりと頭をこちらに向け、僕の存在に気付いた。
その目は言った。
――― 俺はもう、抜け殻なのに
僕は答えず、傍らの椅子に腰を下ろした。
五年。
ハルは、静止したその歳月を呪っているのだろうか。
僕ならば、きっと耐えられない。
ハルならば、なおさら。
ただ生かされている人生など。
僕は意を決して立ち上がった。
瞬間、ハルとの思い出が溢れ、込み上げてくるものがあった。


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