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蒼い殺意
【純文学 その他小説】

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第五弾 One Pass Way  〜ブルー・ごしっぷ〜-2

いつからその噂が広まったのか、分かりません。誰が言い出したのか、それすら定かではありません。確かなことは、世話役やら辰三やら村人全てが、この噂を信じているからのことです。

半信半疑の者も居るかもしれません。がしかし、二割でも一割でもそれが真のことなら・・。あなたならどうします?噂だからと打ち捨てられますか?

ではその噂とやらを、女性から聞いたその噂を。
老婆の先祖は平家一門の落ち武者で、壇ノ浦の戦いを免れた者なのです。平家復興の悲願を胸に、相当の軍資金を埋蔵したということです。

そしてその番人たる落ち武者は平家に関わる者であることを隠して、
記憶を失った一人の男として村に入りました。たまたま襲った嵐を利用して、遭難したかの如くに装ったのです。

当初は敬遠していた村人たちも、洞窟に一人暮らしの男が気の毒になりました。前にお話したとおり、食事を共にすることはできません。そこで洞に住み着いた男に、食べ物を届け始めたのです。

しかし痩せた土地柄では潤沢な収穫量があるわけでもなく、次第に届けられる食べ物も減っていきます。止むなく森で木の実類を集め始めたものの、冬の到来によってそれもままならぬようになっていきます。

次第に痩せ衰えていく男、しかしここで命果つるわけにはいきません。平家復興という大願があります。何としても生き延びねばと、
村人たちの農作業の手伝いをさせてくれと懇願します。

しかし余所者を入れるわけにはいきません。無慈悲なことと思いつつも、冷たく拒否します。しかしそこで、天は平家を突き放すことはなかったのです。

昨年夫を失い、更には病に冒されている父親と二人暮しの後家が、
この男を夫として迎えると言い出したのです。この申し出に、村中が賛成をしました。

その頃の村は、働き盛りの男たちが少なくなっていました。森の中に入り込んだ者たちが、ばたばたと亡くなっていたのです。一時は森の神の崇りだと、恐れおののいたのです。

たまたま通りかかった修験者に、祈祷を頼みました。気の毒に思った修験者が三日三晩の祈祷を行いました。しかしその後も、森に入り込んだ者の不幸は続きました。

新たな修験者が通りかかった折に、事の真相を突き止めてくれと頼みます。するとその修験者は、これは崇りではなく何か良からぬ物を食したせいだと断じました。

で、その村特有の土着宗教が見直されたのです。村に残る者たちに分け与えることなく、己たちだけで食したが為の事とされたのです。
人間の食に対する卑しさの恐ろしさを、村人たちは思い知らされました。

人間の食に対する性は貪欲で業が深く、憎悪の根源であると言う教えが村人たちに浸透したのです。決して神々の崇りではなく、人間の為せる業のせいだと信じたのです。

平家の落ち武者であることを隠したまま、男は村人の一員となったのです。そして代々に渡り平家の軍資金とは言わずに、大切な預かり物として一子相伝したのです。

「いつの日か、立派なお方がお見えになる。その日まで、何代後になろうとも預かり続けねばならぬ。もしこれを破れば、きっと大きな災いがこの村を襲うことになる。天罰が下ることになる。」

今、あの大地震が天罰として捉えられたのです。老婆の家に代々伝わる預かり物が、実は平家の軍資金だとする噂が広まったが為に、
天罰としての大地震だと皆が考えたのです。

となると、老婆がその在り処を知るのかということが、村人たちの関心の的になりました。然も、伝えるべき者が居ないのです。いやその前に、老婆が知っているのかどうかが問題です。


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