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蒼い殺意
【純文学 その他小説】

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ブルーシリーズ:第六弾 蒼い恋慕 〜ブルー・れいでぃ〜-5

少年の観たアメリカ映画では、じっと互いの目を見詰め合っている。
時に微笑みを貰い、そして微笑みを返す。しかしこの場では、
苦痛に歪んだ表情を見せ合っている。羨望、軽蔑、そして憎悪が睨みを利かせている。それも又、愛の起源ではあろう。

 バンドは、一段高いステージの上にいる。激しく体をくねらせながらプレイしている。そのステージの下段に、何のためのものか判然としない鏡が貼られている。その中で若者たちが、やはり体をくねらせている。その鏡から視線を外して壁に移る。

そこには、種々のグループサウンズのポスターが貼ってある。べたべたと貼り付けてある。そしてその下には、熱狂的ファンなのだろうか、殴り書きがある。大半が、‘○○命!’でありシンプルに‘好き!’もあった。

 もう一度バンドに目を向けると、激しく動くスポットライトの中にも。等身大らしきポスターが何枚も貼ってある。黒のマントに身を包んだ、ザ・ビートルズだ。神として崇められている、ザ・ビートルズが。

 「リンゴの半テンポずらすリズム感が良いんだ。」
 「ジョン・レノンのシャウトは絶品だ。」
 「ポールだって、光ってる。」

 四人組のはずなのに、三人の名が飛び交う。ジョージ・ハリスン
の名が出てこない。更には、リンゴ・ポールと呼び合うのに、ジョン・レノンだけが。しかし少年は興味を示さない。少年のお気に入りはプレスリーであり、アニマルズだった。

‘朝日の当たる家’に聞き惚れている少年だ。ミリタリールックのビートルズを好きになれない少年だが、お気に入りの‘Twist & Shout!’がビートルズの楽曲だとは知らないでいた。

 曲が変わった。ステージの上で、ボーカルが飛び上がっている。
「それじゃ、リクエストに応えていくぜ!Twist & Shout!」
 思いもかけぬ曲名が告げられた。

ステージに体を向けた少年の目に、ホール中央で膝を落として体を左右に振り振りする若者たちが目に入った。
“あれが、Twistと呼ばれる踊りなんだ。”

“バンバン、ババババンバンバババ、バババジャーン!”
“ヴィー、ヴィヴィヴィー、ティーピーヴィピーティーン!”
“チャキチャキ、チャチャチャキー!”
“ブンブン、ボンボンブンボンブンボン、ブブブ、ボボボン!”

 髪を振り乱しての女がいて、くわえタバコに目をしかめる男も。
シャツの袖口が青白く光り、激しく左右に。落下傘スカートの裾をなびかせる女がいれば、皆がしゃがみこむ中で躊躇しているミニスカートの女がいる。

二階のボックス席を宛がわれた少年は、彼らの踊りを見下ろしていた。幾分神経も慣れ始め、耳も騒音と感じなくなっていた。しかし、思い描いた世界との落差に失望して、ここに足を踏み入れた理由を忘れてしまった。

 少年の上げた手に気付いた黒服が、コーラの注文を受け付けた。
ここには階下の光の洪水はない。音も階下に比べられば、抑えられている。この階上は踊り疲れた者たちの休憩場所としての役目を帯びているようだ。

そしてもう一つ、メイクラブの場としての役目も。あちこちの席に、ひそひそ声がある。重なり合う頭もある。なぜこの場に移されたのか、少年は戸惑うばかりだ。

 キョロキョロと辺りを窺うわけにもいかないが、気になり始めると目が右に左にと激しく動き回る。そして、奇異な二人連れを発見した。ステージ近くのボックスに、女二人が陣取っている。時折黒服が近寄っては、話に興じている。


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