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蒼い殺意
【純文学 その他小説】

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One Pass Way 〜ブルー・ごしいっぷ〜-2

 村人たちは、洞に住み着いた男に、食べ物を届け始めたのです。しかし痩せた土地柄では潤沢な収穫量があるわけでもなく、次第に届けられる食べ物も減っていきます。止むなく森で木の実類を集め始めたものの、冬の到来によってそれもままならぬようになっていきます。次第に痩せ衰えていく男、しかしここで命果つるわけにはいきません。平家復興という大願があります。何としても生き延びねばと、村人たちの農作業の手伝いをさせてくれと懇願します。

 しかし余所者を入れるわけにはいきません。無慈悲なことと思いつつも、冷たく拒否します。しかしそこで、天は平家を突き放すことはなかったのです。昨年夫を失い、更には病に冒されている父親と二人暮しの後家が、この男を夫として迎えると言い出したのです。この申し出に、村中が賛成をしました。その頃の村は、働き盛りの男たちが少なくなっていました。森の中に入り込んだ者たちが、ばたばたと亡くなっていたのです。

 一時は森の神の崇りだと、恐れおののいたのです。たまたま通りかかった修験者に、祈祷を頼みました。気の毒に思った修験者が 
三日三晩の祈祷を行いました。しかしその後も、森に入り込んだ者の不幸は続きました。新たな修験者が通りかかった折に、事の真相を突き止めてくれと頼みます。するとその修験者は、これは崇りではなく何か良からぬ物を食したせいだと断じました。

 で、その村特有の土着宗教が見直されたのです。村に残る者たちに分け与えることなく、己たちだけで食したが為の事とされたのです。人間の食に対する卑しさの恐ろしさを、村人たちは思い知らされました。人間の食に対する性は貪欲で業が深く憎悪の根源であると言う教えが、村人たちに浸透したのです。決して神々の崇りではなく、人間の為せる業のせいだと信じたのです。

 平家の落ち武者であることを隠したまま、男は村人の一員となりました。そして代々に渡り、平家の軍資金とは言わずに、大切な預かり物として一子相伝としたのです。
「いつの日か、立派なお方がこの地に立ち寄られるだろう。その日まで、何代後になろうとも預かり続けねばならぬ。もしこれを破れば、きっと大きな災いがこの村を襲うことになる。天罰が下るということぞ。」と、伝えたというのです。

 今、あの大地震が天罰として捉えられたのです。老婆の家に代々伝わる預かり物が、実は平家の埋蔵金だとする噂が広まったが為に、天罰としての大地震だと皆が考えたのです。となると、老婆がその在り処を知っているのかどうかということが、村人たちの関心の的になりました。老婆にはすでに身寄りがおらず、伝えるべき者が居ないのです。いやその前に、老婆が知っているのかどうかが問題ではあります。

 齢、八十になろうかという老婆。今では耳が遠く、目も覚束ない状態です。更には痴呆の症状らしきものも出始めています。先年に口の端にのった言葉に、村人皆が一喜一憂しています。
「誰ぞに伝えねばならんが・・。いっそ、皆で平等に分けてしまおうか。はるか昔の言い伝えなど、守らねばならぬものかどうか・・。」
 ぼそぼそと何かを洩らしますが、中々聞き取れません。埋蔵金の在り処を洩らしたかどうかも、判然としません。

 しかしいつかは洩らすであろうと、皆が聞き耳を立てています。元々口数の少なかった老婆ですが、最近はまた、めっきりと口を動かさなくなったのです。時とすると、ひと言も発しない日もあるようになりました。
「誰ぞ、もう聞き出しておるのでは?」
 そんな声が、そこかしこで聞かれるようになりました。しかし確かめる術はありません。表面的には、互いに笑みを見せ合っている村人たちです。

 創られた笑顔であっても、平穏な日々です。がその裏では、恐ろしいほどの憎悪の炎が燃えているのです。疑心暗鬼の霧が漂っているのです。妬みや憎悪の心を争いの根源とする土着宗教もいつか影を潜め、人間の業欲の前に如何に脆いものかをまざまざと見せつけました。一部の間では、老婆を終身まで世話させる為の奸計ではないかと疑いの声が上がリ始めました。しかし今日も今日とて、訪れた家で、下にも置かぬ歓待を受ける老婆です。


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