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蒼い殺意
【純文学 その他小説】

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One Pass Way 〜ブルー・ごしいっぷ〜-1

 このお話は、ふた昔ほど前にある女性から聞いたものです。正直なところ、その真偽の程は分かりません。しかしながら、さもありなんと思えたので、皆さんにもお知らせしようと考えました。

 山間の古びた田舎に、一人の老婆がおりました。身寄りのない天涯孤独の身の上だったそうです。いえいえ、十年程前までは娘夫婦と孫が二人の四人家族だったそうです。そうです、覚えておいでのことと思います。あの大地震で、甚大な被害を被ったらしいのです。たまたま隣町での小学校の同窓会に出席中だった老婆だけが、その難を逃れたとか。あ、別にその災害に関してのお話ではありません。それはそれで哀しい出来事ではあります。しかしある意味では、より哀しみを覚えるお話なのです。前置きが長くなりました、では。

 その村では、家人以外の者を入れての食事を一切とらない風習だということです。その村特有の土着宗教から生まれたもので、人間の食に対する卑しさの戒めとされているとか。人間の食に対する性は貪欲で業の深いものとし、憎悪の根源であると言う宗教なのです。 国の乱れというものは全て相互間の憎悪によるもので、決して末世だの崇りなどではない。人間の為せる業のせい、と説いています。それ故にその村では決して食事に互いを呼ぶこともなく、更には訪問することさえも悪い因習として、戒めています。

といって、村人間の行き来が無いわけではありません。それどころか、頻繁に行き来をしています。農作業やら森林管理やらを、共同作業で行う村なのです。収穫については老若男女の分け隔てなく、人数割りでの分配方法を取っています。原始共産主義のような村社会でしょうか。またまた前置きのようになってしまいました。お話を本筋に戻すことに致しましょう。実は先ほどの老婆のことなのです、お話したいのは。

 この老婆、実は帰る家を失くしています。あの大地震の折に、老婆だけでなく大半の家々が全半壊しています。しかしめげることなく、村人総出で互いの家の修復を行いました。そして老婆の家の修復に入ることになりました。
「お婆さん一人では暮らしが成り立つまい。わしの所で面倒を見ようじゃないか。」
 村の世話役が、申し出ました。で、それですんなりと話がまとまるかと思われたのですが。

「いやいや、世話役さん。わしの所は、母ぁと後家娘の三人暮らしじゃ。わしの所に来てもらいますわ。」と、辰三なる村人が声をあげたそうです。さあそれから、
「わたしの所は年寄りが居ないから。」
「話し相手がおらんでは淋しかろうに。」と、かまびすしいことに。
 結局のところ、他人を交えての食事を禁じた風習が、この老婆に関しては破ることになったのです。
「お婆さんは、村全体の身内じゃから。」と。

 実のところ、村人たちは老婆を歓待しているのでないのです。老婆にまつわる噂で、歓待しているのです。信憑性のある噂ではありません。むしろ眉唾物と考えた方が、良さそうです。いつからその噂が広まったのか、分かりません。誰が言い出したのか、それすら定かではありません。しかし確かなことは、世話役やら辰三やら村人全てが、この噂を信じていることです。半信半疑の者も居るかもしれません。がしかし、二割でも一割でもそれが真のことなら・・。あなたならどうします?噂だからと打ち捨てられますか?

 ではその噂とやらを、女性から聞いたその噂を。
 老婆の先祖は平家一門の落ち武者で、壇ノ浦の戦いを免れた者なのです。平家復興の悲願を胸に、相当の軍資金を埋蔵したということです。そしてその番人たる落ち武者は平家に関わる者であることを隠して、記憶を失った一人の男として村に入りました。たまたま襲った嵐を利用して、遭難したかの如くに装ったのです。当初は敬遠していた村人たちも、洞窟に一人暮らしの男が気の毒になりました。しかし前にお話したとおり、食事を共にすることはできません。


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